相続した不動産を売却する時にかかる税金を税理士が解説します|法律・税金

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相続した不動産を売却する時にかかる税金を税理士が解説します

相続した不動産の売却を検討している方からの質問のひとつに、「売却するときにどのくらい税金がかかるの?」というものがあります。

たしかに、相続した不動産を売却するときにはいくつもの税金を納める必要がありますが、それらの税金の算出方法は複雑でわかりにくいのです。

国は不動産売却時の税負担を減らすために、節税効果のあるさまざまな控除の特例を設けています。

しかし、控除の特例は種類も多く、適用されるための要件もとても細かいため、どの不動産がどの特例に当てはまるかの判断もなかなか難しいのが実情です。

相続不動産の所有者の方々が売却を躊躇してしまうような状況にあるのです。

そこでこの記事では、相続した不動産を売却する時にかかる税金について、当社の税理士監修のもとわかりやすく解説しました。

あわせて、一定の要件を満たすことで節税ができる控除の特例の種類や、適用されるための要件も紹介しています。

相続した不動産の売却をお考えの方や、売却する時の税金や控除の制度について知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

1.相続した不動産を売却する時にかかる税金の種類

相続した不動産を売却する時にかかる税金は、以下の5種類です。

  1. 所得税と住民税(譲渡所得税)

  2. 印紙税

  3. 登録免許税

  4. 消費税

  5. 復興特別所得税

まず、不動産を売却したことで利益を得た場合は、売却益に応じて「所得税」と「住民税」を納めます。

次に「印紙税」ですが、これは、売却利益のあるなしに関わらず必ず生じる税金です。

そして、相続した不動産の住宅ローンなどが残っている場合などは登記が必要になるため、「登録免許税」も納付することになります。

また、震災からの復興のための施策の財源となる、復興特別所得税も納める必要があります。

次節から、これらの税金について詳しくみていきましょう。

1-1 所得税と住民税(譲渡所得税)

所得税と住民税は、ともに所得に課せられる税ですが、納付先が異なります。「国税」である所得税は国が納付先です。一方の住民税は「地方税」に該当するため各自治体に納付します。

また所得税と住民税では対象になる「年」と「納付時期」も違います。

所得税は、当年1~12月の所得に課税されるのに対し、住民税は前年の所得額に対して課税されます。例えば、今年仕事を辞めた場合、所得税は源泉徴収もしくは確定申告をし納付・還付が行われれば完了となりますが、住民税は翌年度より納付することになるのです。

不動産を売却し利益が出ると、利益分(売却益)の所得税と住民税の納付義務が生じます。これら二つの税金をまとめて「譲渡取得税」といいます。

1-2 譲渡所得税の計算方法

譲渡所得税(所得税と住民税)は、譲渡所得から算出します。

譲渡所得は、不動産の売却で得た収入額から、不動産購入時にかかった費用(取得費)と、売却にかかった費用(譲渡費用)を差し引いた金額です。

譲渡費用には仲介手数料や印紙税などが含まれます。
譲渡所得は以下の計算式で算出できます。

譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)

次に、譲渡所得を所定の税率(図1)と掛けると、譲渡所得税が算出できます。

譲渡所得税=譲渡所得×税率

税率は、不動産を所有していた期間によって異なるため、以下の図1を参照してください。
所有期間は被相続人(故人)がその不動産を取得した日が起算日となります。

(図1_所有期間が5年超、5年以下の場合の税率)

図1_所有期間が5年超、5年以下の場合の税率

例として、譲渡所得が2,000万円だった場合の、所有期間ごとの税金額は以下の図2に示す通りです。

(図2_譲渡所得が2,000万円だった場合の5年超、5年以下の税金額)

図2_譲渡所得が2,000万円だった場合の5年超、5年以下の税金額

1-3 印紙税

次に印紙税について解説します。
印紙税は、印紙税法によって定められた文書(契約書や領収書等)を作成する際に課せられる税です。
契約金額ごとに定められた額の収入印紙を購入し、売買契約書等に貼付して納付します。
印紙税が生じるタイミングは、売買契約書の作成時です。

令和6年3月31日まで印紙税には軽減税率が適用されています。具体的な印紙税額は以下の図3を参考にしてください。

なお、売買価格が10万円以下のものについては、軽減措置の対象となりません。

(図3_売却額に応じた印紙額の表)

図3_売却額に応じた印紙額の表

1-4 登録免許税

登録免許税は、法務局で不動産の名義変更などを行う際に国に納める税金です。
不動産を相続する場合、所有者が被相続人(故人)から相続人に変わるため、相続登記を申請し不動産登記簿を書き換えます。

通常の不動産売買では、名義を売主から買主に変更する所有権移転登記の費用については、買主が負担するのが一般的です。

相続登記の登録免許税の算出は、以下の式で行います。

(相続登記)

登録免許税=不動産の固定資産税評価額×0.4%

不動産の売却で売主が費用負担する登記は、住宅ローンの残債があったり、不動産を担保にした借入を行っている場合に生じます。不動産の売却による売却益で借入を完済し、抵当権抹消登記を行うためです。

抵当権抹消にかかる登録免許税は、以下の通りです。

(抵当権抹消)

登録免許税=不動産1筆ごとに1,000円

※住宅の抵当権を抹消する場合、土地と建物分で2,000円

1-5 消費税

消費税は、商品の販売やサービスの提供にかかる税です。譲渡所得税、登録免許税といった税金には消費税はかかりません。
しかし、下記は商品やサービスに該当するため、消費税が発生します。

  • 不動産の売却を仲介業者に依頼した場合の仲介手数料

  • 司法書士への報酬

  • 建物の解体や土地の測量などの費用

消費税は見落としがちですが、10%の税率は低くはないので、見越して準備しておきましょう。

1-6 復興特別所得税

復興特別所得税は、所得税額に対する付加税で、東日本大震災からの復興に関わる施策に充てる財源を確保するための税です。

所得税の納税義務がある方は、復興特別所得税についても納税義務が生じます。

納税期間は平成25年1月1日から令和19年12月31日までです。

復興特別所得税=基準所得税額×2.1%

上記の式で算定され、所得税とあわせて申告・納付します。

2.相続した不動産を売却する時の特例適用、節税方法

次に、相続した不動産を売却する場合の控除の特例について解説します。

不動産は立地や面積などによっては価格が高く、必然的に税も高額になるため、さまざまな控除の特例が設けられています。
特例を適用できれば、かなりの節税になるケースもあるでしょう。

具体的には以下の5つです。

  • 取得費加算の特例

  • 相続した空き家の3,000万円特別控除の特例

  • 3,000万円特別控除の特例

  • マイホームを売った時の軽減税率の特例

  • マイホームの買い換え特例

それぞれ詳しく解説していきます。

2-1 取得費加算の特例

取得費加算の特例とは、不動産の相続時に相続税を支払っている場合、その税額を取得費に加算できるものです。譲渡所得は売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて算出されるため、相続税を加えることで取得費が増えれば、譲渡取得税も減額されます。

取得費加算の特例の適用要件は、以下3点です。

  • 相続や遺贈により、財産を得た相続人である

  • 相続するにあたって相続税が課せられている

  • 相続税の申告期限の翌日から3年以内に譲渡している

相続税の申告期限は、通常は相続が発生してから10ヶ月以内です。
取得費加算の特例を受けるためには、相続が発生したタイミングから3年10ヶ月以内に売却する必要があります。

2-2 相続した空き家の3,000万円特別控除の特例

相続した空き地の3,000万円特別控除の特例とは、親から相続した空き家とその敷地を売却した際に、下表にある一定の要件に当てはまる場合、適用対象となります。

(図4_特例の適用を受けるための要件)

図4_特例の適用を受けるための要件

この特例は空き家(戸建て)を対象としており、相続した不動産が分譲マンションの場合は適用されないため注意が必要です。

またこの特例は、取得費加算の特例と併用できません。

相続した空き地に複数の建物(母屋と離れなど)がある場合、控除対象となるのは居住していた母屋と母屋の敷地だけです。

2-3 3,000万円特別控除の特例

3,000万円の特別控除の特例とは、持ち家を売却した際に、所有期間に関わらず譲渡所得から最大で3,000万円が控除されるものです。

前述した2つの特例(取得費加算の特例・相続した空き家の3,000万円特別控所の特例)は、相続した不動産に限定しています。

しかし、3,000万円特別控除の特例は、自宅を売却する場合でも適用可能です。
対象は自宅、もしくは相続した空き家のみとなり、店舗・別荘・投資用などの物件の売却では適用されません。

この特例が適用されれば、自宅を売却し得た利益が3,000万円以下の場合、譲渡所得税の納付が不要になるので、大きなコストメリットがあります。

2-4 マイホームを売った時の軽減税率の特例

次に、マイホームを売った時の軽減税率の特例について解説します。
この軽減税率の特例は、売却した当年1月1日時点での自宅の所有期間が10年を超える場合、譲渡所得税率をさらに軽減できる特例です。

ポイントは、3,000万円特別控除の特例と併用が可能な点です。併用できれば、大きな節税効果が期待できるでしょう。

所有が10年を超える自宅を売却した場合、譲渡所得から3,000万円の控除をした後の譲渡所得について、6,000万円まで軽減税率が適用されます。

税額については下表の通りです。

(図5_6,000万円以下、6,000万円超の場合の税率)

図5_6,000万円以下、6,000万円超の場合の税率

2-5 マイホームの買い換え特例

マイホームの買い換え特例とは、住み替えをする際に適用される特例です。
これは、住み替え先の物件の価格が元の自宅と同じ、もしくは高額であった場合、譲渡で得た利益に対する課税を繰り延べられるというものです。

元の自宅より安い物件を購入した場合は、その差額について課せられる譲渡取得税が通常より低くなります。

元の自宅と、買い換え先の新居、それぞれに以下のような適用要件があります。

(元の自宅)

  • 自分で住んでいるか、住まなくなってから3年以内の家屋であること

  • 所有期間が1月1日の時点で10年を超えていること

  • 居住期間が通算で10年以上であること

(新居)

  • 旧自宅を売った年の前年から翌年までの3年の間にマイホームを買い換えること

  • 土地が500㎡以下、建物の床面積が50㎡以上であること

  • 耐震・耐火基準を満たすこと

3.売却後に確定申告が必要となる場合

最後に、不動産を売却後に確定申告が必要になるケースについて解説します。
相続で得た不動産かどうかに関わらず、以下については確定申告をしなくてはなりません。

  • 譲渡所得が発生する場合

  • 控除の特例を用いる場合

それぞれのケースと、確定申告に必要な書類について解説します。

3-1 譲渡所得が発生する場合

不動産を売却することで得る譲渡所得は、分離課税とよばれ、給与所得とは別に税金を算出しなくてはなりません。

そのため、給与所得を源泉徴収で納めているサラリーマンであっても、不動産の売却によって譲渡所得が発生するのであれば、確定申告が必要です。

3-2 控除の特例を用いる場合

2章で紹介した、取得費加算の特例、3,000万円特別控除の特例などの控除を受ける場合も確定申告が必要になります。

控除の特例を受けることで譲渡所得税の納付が不要になる場合でも同様です。
これは、確定申告することで控除の特例の適用を申請する形になるためです。

3-3 確定申告で必要な書類

それでは、不動産を売却した場合の確定申告で用意しておくべき書類を解説します。
以下に記載するのは、不動産の売却での確定申告で一般的に必要な書類です。

(表D)一般的に確定申告で必要となる書類

  • 確定申告書

  • 本人確認書類

  • 譲渡所得の内訳書

  • 不動産の売買契約書の写し

  • 譲渡費用の分かる資料(領収書など)

  • 取得費用の分かる資料(領収書など)

  • 譲渡した不動産の全部事項証明書

  • 印鑑

控除の特例の適用を申請する場合は、それぞれの特例ごとに必要な書類が異なります。必ず事前に下記の専用ページで必要書類を確認し、早めに準備をしておきましょう。

【控除の特例ごとの専用ページリンク】

確定申告の申請期間は、原則毎年2月16日~3月15日の1か月間です。
この1か月の間に、前年の1月1日~12月31日までの間に売却を行った分について確定申告を行います。
期間内に申請が行えるよう、しっかり準備をしておきましょう。

まとめ

相続した不動産を売却する時にかかる可能性のある税金は所得税・住民税・印紙税・登録免許税・消費税・復興特別所得税です。
所得税と住民税はあわせて「譲渡所得税」といいます。

復興特別所得税は、東日本大震災からの復興に関わる施策の財源となる税で、所得金額に対する付加税です。
印紙税は契約書などの作成に課せられる税で、不動産売却では売買契約書に契約金額から算出される税額分の収入印紙を貼付することで納付します。
消費税は、仲介手数料や建物の解体費などにかかります。

次に、控除の特例は相続した不動産に適用されるものが以下2つです。

  • 取得費加算の特例

  • 相続した空き家の3,000万円特別控除の特例

自宅の売却や買い換えに適用されるものは以下3つになります。

  • 3,000万円の特別控除の特例

  • マイホームを売った時の軽減税率の特例

  • マイホームの買い換え特例

控除の特例はそれぞれ細かい要件を満たす必要がありますが、適用されれば譲渡所得額から3,000万円を控除できたり、低い税率を適用されたりします。
大きな節税効果が見込めるので、積極的に活用しましょう。

また、不動産を売却した場合は、所得税を源泉徴収で納付している方でも確定申告をしなくてはなりません。

特に控除の特例を適用されるよう申請する場合、必要書類を揃えるのには時間がかかります。
確定申告の期間内に申請できるよう、あらかじめ準備しておくことも大切です。

この記事の監修者

山口 義重ヤマグチ ヨシシゲ

税理士

税理士。東京都出身。中央大学法学部を卒業し、ワールド法律会計事務所代表。共有持分の相続案件で多く相談される相続税が得意分野だが、生前贈与や、親族間の不動産売買等相続対策にも豊富な経験・実績のあるスペシャリスト。

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