共有持分を相続した場合の相続登記の申請方法~贈与や譲渡の場合はどうなる?~|法律・税金
共有持分を相続した場合の相続登記の申請方法~贈与や譲渡の場合はどうなる?~
相続が発生した時、多くの場合は落ち着く間もなく手続きを進めなくてはならず、戸惑ってしまうものです。
特に相続する財産が不動産が含まれている、さらに複数の相続人で相続する「共有持分」での相続は権利関係が複雑になりがちで、そのぶん手続きにかかる労力は多大です。
しかし、やるべきことの全体像を頭に入れておけば、効率的に進めることも可能となります。
この記事では、不動産の共有持分の相続が生じた場合、どんな準備をし、なにをすればよいのかを具体的に解説していますので、ぜひ参考にしてください。
1.不動産を相続したらやるべきこと
まず、不動産を相続したらやるべきことについて、以下の順で解説します。
・不動産を相続したら必要な3つのステップ
・相続登記とは?単独名義と共有名義の申請方法のちがい
・共有持分の場合は持分全部移転登記が必要
それでは、順にみていきましょう。
1-1.不動産を相続したら必要な3つのステップ
不動産を相続した場合、以下の3つのステップを踏みます。
・必要書類の収集
・遺産分割協議
・相続登記の申請手続き
不動産の相続は、「相続人が複数人いて、遺言書がない場合」は、基本的には相続人同士でどのように遺産を分けるかを話し合って決定します。
これを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議をおこなうためには、まず、遺産内容をすべて洗い出しておかねばなりません。
そして、協議の結果を「遺産分割協議書」として正式にまとめるために、被相続人(故人)・相続人それぞれの戸籍謄本などの書類も準備する必要があります。
必要書類は、下表を参考にしてください。
相続関係を証明する書類

遺産を証明する書類

必要書類が揃ったら、相続人を全員集め、遺産分割協議をおこないましょう。
被相続人(故人)の遺産は、相続が発生した時点では法定相続人全員で共有した状態(遺産共有状態)になっているため、そのままにしておくと後々トラブルにつながります。揉め事を避けるため「とりあえず共有名義」は、かえってトラブルの火種になることが多いため、しっかり協議し相続人を決定しましょう。
協議の結果は遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が実印を押し、1通ずつ所持します。
その後、相続登記申請書等の必要書類を揃えて相続不動産を管轄する法務局に提出すると、相続登記が完了します。
1-2. 相続登記とは?単独名義と共有名義の申請方法のちがい
不動産登記簿の不動産の名義を、被相続人(故人)から相続人の名義に書き換えることを「相続登記」といいます。
相続登記の目的は、不動産の所在・面積や所有者などを不動産登記簿に記載し、公にすることで、所有権や納税に関する紛争を防ぐことです。
不動産の所有権を主張するには、不動産登記簿への登記が必要です。
相続登記には「単独名義」と「共有名義」の2つがあります。
遺言もしくは遺産分割協議によって、被相続人の不動産を1人が引き継ぐ場合は「単独名義」、複数人で引き継ぐ場合は「共有名義」で相続登記を申請することになります。

1-3. 被相続人単独名義の不動産を共有持分として相続した場合の登記申請の方法
不動産の共有持分とは、共有名義の不動産に対する共有者それぞれの所有権の割合のことです。

もともと被相続人(故人)単独名義の不動産を共有持分として相続し、相続登記を行う場合、登記申請書の目的欄には「所有者移転」と記載します。
1-4. 有名義の不動産を共有持分として相続した場合の登記申請の方法
もともと被相続人が、誰かと共有名義で不動産を所有していて、被相続人の持分を共有持分として相続した場合、登記申請書の目的欄には「持分全部移転」と記載します。
持分全部移転登記とは、現所有者の持分を丸ごと新しい所有者へ移転することです。
つまり、現所有者の持分は、なくなります。
相続により共有持分を取得した場合は、被相続人は故人であり、持分を残すことは不可能なので、すべて「持分全部移転登記」になるわけです。

<持分一部移転登記とのちがいは?>
共有持分の移転登記には、「持分一部移転登記」もあります。
これは、自分の持分の一部を譲渡した場合などで使われます。
全部と一部の違いは、移転登記後も元の所有者が権利を持ち続けるかどうかの違いといえるでしょう。

2.共有持分の登記申請が必要になるケースとは?
では、共有持分の登記申請が必要になるケースを確認していきましょう。
主に以下の3つがあります。
・共有持分を相続した場合(相続登記前)
・共有持分を贈与した場合(相続登記後)
・共有持分を放棄した場合(相続登記後)
一つずつ説明します。
2-1. 共有持分を相続した場合
被相続人が不動産の共有持分を所有していた場合、共有持分の相続に伴い相続登記の申請が必要になります。上記で説明した通り、「所有権移転」または「持分全部移転」で登記申請しましょう。
2-2. 共有持分を譲渡した場合
相続登記が完了後、自身の持分のみを第三者に譲渡することができます。譲渡には、無償で譲る「譲渡」や対価を得る「売却」などの手段があります。
自身の持分のみを譲渡する場合は、他の共有者の同意や登記手続き時の協力は不要です。
2-3. 共有持分を放棄した場合
相続登記の完了後、自身の持分のみを放棄した場合も、登記が必要になります。
共有持分の放棄に限って言えば、放棄の意思表示で他の共有者に持分を移すことができます。
しかし、移転登記は共有者と共同で提出しなくてはなりません。
つまり放棄は単独でおこなえ、効力も発揮しますが、不動産登記簿の書き換えには共有者全員の協力が必要となるのです。
共有持分の放棄については、下記の記事で詳しく解説しています。
参考:知らないと損する!共有者の同意なく共有持分を放棄する方法【2023-22最新版】
3.共有持分の相続登記はどうすればいい?
それでは、共有持分を相続したとき、相続登記の申請をいつだれがどのようにおこなえばよいのでしょうか。
・相続登記の申請は誰がやるべき?自分でできる?
・相続登記の申請はいつやるべき?義務化されるのはいつ?
・相続登記の申請に掛かる費用は?
・相続登記をしないとどうなる?
一つずつ確認していきます。
3-1. 相続登記の申請は誰がやるべき?自分でできる?
相続登記の申請は誰がおこなうべきか、については、遺産分割の方法によって異なります。
遺言書がある場合は、遺言書に記載のあった相続人が申請をおこないます。
例えば遺言書に「不動産を、子、A子に相続させる」と記載があれば、A子さんが相続登記申請をおこないましょう。
※遺言書がある場合でも、遺言書と異なる内容で遺産分割協議が纏まった場合は、遺産分割協議の内容で相続登記をすることが可能です。
遺産分割協議をおこなった場合は、協議の結果をうけ、不動産の相続人となった人が相続登記申請をおこなうのが通常です。
法定相続分で遺産分割をおこなった場合は、相続人全員で共同で申請します。
ただし、法定相続分は、法律で分割方法が定められており公平性が保てるため、相続人のうちの1人が単独で申請を行うことも可能です。
相続登記を自分でおこなう方も近年増えていますが、必要書類の収集には想像以上に時間と手間がかかります。
相続登記の代行は、司法書士が実施できるので、申請手続きが負担であれば依頼をするのもよいでしょう。
3-2. 相続登記の申請はいつやるべき?義務化されるのはいつ?
現時点(2023年)では、相続登記が義務ではないため申請期限も決められていません。
しかし、2024年4月1日より、相続登記の申請が義務化されます。
義務化の背景には、相続登記申請がおこなわれず所有者不明の土地が増えてしまい、空き家や管理不全状態のまま放置されることを防ぐ目的があります。
改正法施行前の相続についても、相続登記申請の義務化の対象です。過去に相続を受けた人も、遡って申請をおこなう必要があります。
相続登記申請の期限については、以下のいずれか遅い日から3年以内と定められました。
・自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日
・民法および不動産登記法の改正法の施行日
2点目の条件(改正法の施行日より3年)により、相続登記の申請期限は最大で2027年4月1日となります。
この日までに、現在相続登記申請をおこなっていない不動産についても手続きをすませることが望ましいでしょう。
参照元:令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国家帰属法のポイント
3-3. 相続登記の申請にかかる費用は?
相続登記を申請するには、どのような費用がかかるのでしょうか。

登録免許税は、相続登記をするときに課せられる税金です。
所有者不明の不動産の相続登記を促す目的で、相続登記がされていない不動産については一定の条件のもと、期間限定で免税措置がとられています。(令和7年3月31日まで)
また、価格が100万円以下の不動産についても登録免許税はかかりません。
3-4. 相続登記をしないとどうなる?
相続登記は、現在もしていない人が多く、放置することによる不利益があまり認識されていないのが実情です。
所有者の権利を明示できないことは、さまざまなリスクを抱えることになります。
1)他者に先に登記され、不動産の権利が失われる
不動産は登記をしたものが権利を有します。第三者が登記を行い権利を主張されてしまうと、自分の権利を証明できなければそのまま不動産を失うことになります。
2)権利関係が複雑になる
相続登記をしていない状況で、さらに相続が発生すると、権利が枝分かれし、共有者はどんどん増えていきます。
共有持分の場合、権利関係が複雑になり、自身の子どもや孫がトラブルに巻き込まれる可能性があります。
3)特定空き家に指定され、固定資産税が高額になる
周辺の景観を損ねたり、建物崩壊の危険性がある空き家は、「特定空き家」に指定される可能性があります。指定されてしまうと固定資産税の軽減措置対象から除外され、固定資産税が更地のように高額になります。

4)過料の支払いをおこなわなければならなくなる
2024年4月より相続登記が義務化されるため、登記しないとペナルティとして10万円以下の過料の支払いが科せられる可能性があります。
不動産の相続登記は、放置せずおこないましょう。
4.共有持分の相続登記申請の流れ
次に、共有持分の相続登記の流れについて、順を追って解説します。
・相続登記の3つの種類
・相続登記に必要な書類を準備
・書類を提出
・相続登記後にかかる税金
具体的に見ていきましょう。
4-1. 相続登記3つの種類
相続登記には以下の3種類があります。
・法定相続分による相続登記
・遺産分割協議による相続登記
・遺言による相続登記
「法定相続分」による相続登記は、遺産分割協議をおこなわずに民法に定められた相続の順位・割合で相続人や共有持分を決定する方法です。単独で相続登記がおこなえますが、相続人らの意思を反映しないためトラブルが懸念される方法で、なるべく避けたほうがよいとされています。
「遺産分割協議」による相続登記は、誰がどの財産をどの程度受け継ぐかを相続人全員で話し合って決める方法です。
遺産分割協議は、相続人の全員の合意がなければ成立しないため、合意形成までに時間がかかったり、協議が不調に終わる可能性もあります。
「遺言」による相続登記は、被相続人の遺言書を元に遺産分割をする方法です。
遺言書が公正証書遺言でなく、自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所に提出し開封および検認を受ける必要があります。
4-2. 相続登記に必要な書類を準備
相続登記に必要な書類を、3つの種類ごとに図にまとめていますので、ご確認ください。



「遺言」での相続登記では、出生から死亡までの戸籍謄本ではなく、亡くなったときの戸籍謄本の準備ですみます。
「遺産分別協議」および「法定相続分」の相続登記で必要になる「出生から死亡までの戸籍謄本」は、本籍を何度も移しているケースだと、辿るのが難しくなります。
除籍簿をひとつひとつみるような難しい作業になる場合、司法書士への依頼を検討するのもよいでしょう。
相続関係説明図は、相続人の関係を家系図のようにあらわした図です。これを作成し、提出することで、戸籍謄本などの原本が返却可能となるので、ほかの手続きに使用できるメリットがあります。
4-3. 書類を提出
相続登記の申請方法は、3つあります。
・管轄の法務局の窓口で申請
・書類一式を郵送
・オンライン申請
一つは、管轄の法務局の窓口に書類を持ち込む方法です。法務局は地域ごとに管理する範囲を設けているので、相続登記する不動産の管轄の法務局でなければ申請できません。
遠方の不動産を相続し、管轄の法務局まで足を運ぶのが難しければ、郵送申請かオンライン申請で実施しましょう。
参考:管轄のご案内
次に郵送申請です。
すべての必要書類をそろえて管轄の法務局に郵送します。
郵便事故などの可能性を考慮し、記録の残る送付方法を選択するとよいでしょう。
3つめがオンライン申請です。
現在はオンライン申請が最も利用されています。パソコンに専用ソフトのインストールが必要で、手順もやや煩雑ですが、法務局に出向くより利便性が高いです。
オンライン申請はこちらから
事前準備をすべきものやオンライン申請のおおよその手順は、下図で確認してください。





4-4. 相続登記後にかかる税金
相続登記を行うと、固定資産税の支払いも不動産の所有者が負担することになります。
共有持分の場合、固定資産税は連帯納付となり、相続人全員に支払い義務が生じますが、納付書は、代表者ひとりに送付されます。
誰を代表者とするかは共有者間で決定し、市区町村から送付される「相続人代表指定届」を記入し届け出ましょう。
不動産所有者側で代表者の指定がない場合、市区町村ごとに定めた決め方で決定されます。
代表者が固定資産税を全額納付しない場合、連帯納付なので共有者に納付書が送られることになります。
まとめ
不動産の共有持分を相続した場合、まず、遺産の洗い出しと必要書類の収集を行います。
遺言書がなければ遺産分割協議で相続人全員で話し合い、分割方法を決めましょう。
また登記申請は、不動産の管轄の法務局の窓口、郵送、オンライン申請のいずれかでおこなってください。
相続登記の手続きは、必要書類が多く、権利関係の調整も複雑になるケースがあります。
スムーズに遺産分割や相続登記をおこなうためにも、全体の流れや気を付けるべきポイントなど、これから相続登記をおこなう方のご参考になれば幸いです。
この記事の監修者
司法書士
司法書士。福岡県出身。東京司法書士会所属。司法書士ALBA総合事務所代表。遺言書の作成から執行、相続放棄、遺産分割協議、特別代理人選任申立など相続に関する手続き・対策の専門家。親切・安全・丁寧がモットー。