二重起訴(重複起訴)の禁止とは
二重起訴(重複起訴)の禁止とは
(重複する訴えの提起の禁止)
民事訴訟法142条:「裁判所に係属する事件については、当事者は、更に訴えを提起することができない。」
例えば、現在東京地方裁判所で裁判中にもかかわらず、札幌地裁で相手も訴訟の内容も全く同一の裁判を提起する場合、訴訟経済に反するばかりか、矛盾した判決が出てしまう可能性もあります。
また、被告としては裁判に応じなければならない(応訴の煩)という弊害もあります。そこで、重複起訴に当たる裁判は後で起こされた訴えの方を不適法として却下されます。
二重起訴となるかどうかの判断基準
二重起訴となるかどうかは、
- 当事者の同一性
- 訴訟物(審判対象)の同一性
上記2つから判断すべきだとされ、1.当事者の同一性と2.訴訟物の同一性の両者を満たす必要があります。
例えば、AがBに対して貸金返還訴訟を提起する場合
ケース1
- 前訴:1. AがBに対して、2. H21年1月1日に貸し付けた100万円の貸金返還請求訴訟を提起
- 後訴:1. AがBに対して、2. H21年1月1日に貸し付けた100万円の貸金返還請求訴訟を提起
この場合は1の当事者も同一、2の訴訟物も同一なため重複起訴に該当し、後訴は不適法として却下されます。
ケース2
- 前訴:1. AがBに対して、2. H21年1月1日に貸し付けた100万円の貸金返還請求訴訟を提起
- 後訴:1. AがCに対して、2. H21年1月1日に貸し付けた100万円の貸金返還請求訴訟を提起
この場合は1の当事者は異なり(BとC)、2の訴訟物は同一です。1の当事者が異なるため両訴えは当然適法です。
ケース3
- 前訴:1. AがBに対して、2.
H21年1月1日に貸し付けた100万円の貸金返還請求訴訟
を提起 - 後訴:1. AがBに対して、2.
H25年4月1日に貸し付けた100万円の貸金返還請求訴訟
を提起
この場合は1の当事者はAとBで同一ですが、2の訴訟物は貸し付けた日が異なります。1の当事者は同様ですが、2の訴訟を提起している債権の内容が全く別なため、適法とされます。
このように当事者が同一で似たような訴訟であっても、その請求する内容が異なっていれば当然重複起訴とはされません。あくまでも1の当事者が同一且つ2の訴訟物(請求の内容)が同一かで判断されます。
ケース4
- 前訴:1. AがBに対して、2.
H21年1月1日に貸し付けた100万円の貸金返還請求訴訟
を提起 - 後訴:1. BがAに対して、2.
H21年1月1日に貸し付けられた100万円の債務不存在確認訴訟
を提起
この場合は1の当事者は同一ですが、2の訴訟物は給付訴訟と確認訴訟で異なるように思えます。
しかし、ある請求権について請求権の存在/不存在を確認する「確認の訴え」と、給付を求める「給付の訴え」の2つを起こした場合は、どちらの裁判が先に始まっても、後訴は二重起訴となります。実質的には同一当事者で同じ内容について裁判することになるからです。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。早稲田大学法学部卒業。東京弁護士会所属。不動産の共有関係解消など相続と不動産分野の案件へ積極的に取り組む。主な著書に「一番安心できる遺言書の書き方・遺し方・相続の仕方」「遺言書作成遺言執行実務マニュアル」など。