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【2023年最新版】相続人不存在の共有不動産の持分はどうなる?|弁護士Q&A

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【2023年最新版】相続人不存在の共有不動産の持分はどうなる?

少子高齢化に伴い、相続件数は増加しています。不動産を共有している共有者の中に、相続人不在の人がいる場合、その人の持分はどうなるのでしょうか。

本記事では、2023年の民法改正による変更ポイントをもとに相続人不在時の注意点と必要な手続きを解説します。

1. 相続人不在とは

相続人不存在とは、亡くなった人(被相続人)の遺産を相続する人がいない状態を指します。

内閣府の「2022年(令和4)版高齢社会白書」によると、日本の総人口は、2021年(令和3年)10月1日現在、1億2,550万人となっています。

そのうち、65歳以上人口は3,621万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は28.9%です。

1950年(昭和25年)は総人口の5%未満だったものの、1970年(昭和45年)には7%を超え、1994年(平成6年)には14%を超えています。

また、65歳以上のいる世帯については、2019年(令和元年)時点、世帯数は2,558万4,000世帯と、全世帯(5,178万5,000世帯)の49.4%を占めています。

内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版)」

このように高齢化が進むことで、65歳以上の一人暮らしが増加傾向にあり、身寄りのない高齢者が亡くなった際、遺産を相続する人がいないケースも増えているのです。

1-1 相続人不在になる主なケース

ここでは、相続人が不在になる主なケースについて解説します

1-1-1 法定相続人がいない

相続人不在になる主なケースとして、「法定相続人がいない」というのがよくある事例です。

法定相続人とは、亡くなった人(被相続人)の遺産を相続できる権利がある人です。法定相続人となる人や相続順位は、民法で定められてます。

親族構成により異なりますが、相続開始時に配偶者がいる場合、配偶者は常に相続人です。

配偶者以外の人は、第1順位に被相続人の子および代襲相続人、第2順位に被相続人の父母・祖父母などの直系尊属、第3順位に被相続人の兄弟姉妹です。

代襲相続人とは、本来相続人となる子や兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合、その人の子が代わりに同じ順位で相続することです。

孫が死亡している場合はひ孫が相続人です。

また、兄弟姉妹が死亡している場合は甥や姪が相続人となります。

配偶者や子がいない場合には、被相続人の父母・祖父母などの直系尊属、直系尊属もいなかった場合には兄弟姉妹が相続します。

一方、父母のいずれかが相続人になれば、祖父・祖母は相続人にはなれません。

つまり、第1順位〜第3順位の法定相続人が亡くなっていた場合で、代襲相続する人がいないときに法定相続人がいないときに「法定相続人がいない」という状態になります。

1-1-2 全員が相続放棄をした

法定相続人がいたとしても、すべての法定相続人が相続放棄するケースもあります。

相続放棄とは、被相続人の遺産を相続する一切の権利を放棄することです。

この場合は、相続人は不存在となります。

遺言書などにより、特別な規定がない限り、法定相続人のみに遺産相続の権利があります。そのため、すべての法定相続人が放棄すると、相続人不在になるのです。

相続放棄は、相続の開始を知った日から3か月以内に行わなければなりません。

この期間を「熟慮期間」といいます。

この熟慮期間内に、原則として家庭裁判所に対する申述を行う必要があるのです。

1-1-3 欠格や廃除によるもの

法定相続人が相続放棄をする意思がない場合でも相続の欠格・排除に該当するときは、相続人不在になります。

相続欠格とは、民法891条に該当する行為がある場合に相続する権利を失うことです。

相続欠格に該当する行為は、以下のとおりです。

  • 故意に被相続人または相続を殺害したり、殺害しようとした場合
  • 被相続人の殺害されたことを知っていて、これを告発せず、または告訴しなかった場合(※ただし、殺害されたことを知っていた者が子供や精神疾患を患っていた場合など、判断能力が欠けている状態であれば、相続欠格に該当しません。)
  • 詐欺や脅迫によって遺言を被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた場合
  • 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた場合
  • 遺言書を破棄・偽造・隠したりした場合

相続廃除とは、被相続人の意思に基づき、相続する権利を失わせることです。

被相続人の意思といっても、一定の条件にのみ相続廃除が認められます。

相続廃除は、民法892条に定められています。

「遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたとき、または推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる」

つまり、相続人廃除が認められる事例は、虐待や侮辱行為、不貞行為など、精神的苦痛や肉体的苦痛が挙げられます。

遺留分とは、法定相続人に対し、最低限保障される相続財産の割合を指します。

相続廃除を行うには、被相続人が家庭裁判所に申し立てをするか、被相続人の遺言に基づき遺言執行者が家庭裁判所へ申し立てる必要があります。

ただし、必ずしも廃除できるわけではありません。

2. 相続人不在の不動産はどうなる?

相続人不在の場合、被相続人が所有していた不動産は誰の所有物になるのでしょうか。

ここでは、相続人不在の不動産について解説します。

2-1  完全所有権の不動産は国庫に帰属する

遺言書が無く、債権者や特別縁故者もいない場合、不動産は国庫に帰属します。

特別縁故者とは、被相続人と特別に親しい関係があった者です。

民法(958条の3)では、被相続人と生計を同じくしていた者や被相続人の療養看護に努めた者、その他、被相続人と特別密接な関係にあった人と規定されています。

2-2  共有名義不動産の場合は他の共有者に帰属する

共有名義不動産の場合は、国庫ではなく共有者に持分が帰属します。但し、他の共有者に帰属させるには、裁判所による一定の手続が必要です。

手続き方法については、後述します。

3. 共有者が相続人不在のまま死亡した場合に必要な手続き

不動産を共有状態で所有している場合、不動産の取り扱いについて共有者間で意見が合わず、トラブルに発展するケースも少なくありません。

そのため、早期に共有状態について話し合う必要があります。共有状態を解消する方法については以下のとおりです。

2-2-1 不動産を物理的に分割して単独で所有する

200㎡の土地を、兄と弟それぞれ2分の1ずつ所有している場合、土地を100㎡と100㎡に分け、それぞれ単独の所有者として登記するということです。

2-2-2 共有不動産を現金化する

共有不動産を一括で売却し、現金化する方法もあります。

売却代金は、不動産の共有者で分割します。

たとえば、兄と弟がそれぞれ2分の1ずつ共有していた不動産が8,000万円で売却できたら場合、兄と弟がそれぞれ4,000万円ずつ受け取ります。

2-2-3 共有持分を売却する

共有持分を売却することで、共有関係を解消する方法です。

例えば、3,000万円の価値のある不動産を兄弟2人で所有している場合、兄が弟に自身の持分を1,500万で売ることで、共有していた不動産は弟の単独所有となります。

これにより、共有関係が解消されるのです。

 3. 共有者が相続人不在のまま死亡した場合に必要な手続き

ここでは、 共有者が相続人不在のまま死亡した場合に必要な手続きについて解説します。

3-1 相続財産管理人の選出

相続人不在のまま死亡した場合は、被相続人の財産を「相続財産管理人」が管理します。

ただし、相続財産管理人を選出する場合は、相続人がいないケースに限られます。

そのため、まずは相続人がいるかどうかを確認します。

3-2 相続人の捜索

相続人がわかっていた場合でも住所がわからない場合や連絡先がわからない、音信不通で連絡が取れないなどのケースもめずらしくありません。

遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければなりません。

3-2-1 相続人の住所がわからない

相続人の住所がわからない場合は、戸籍の附票を調べる必要があります。

戸籍の附票とは、戸籍の原本と一緒に保管している書類のことです。

相続人の本籍地にある市区町村役場に戸籍の附票を発行してもらいます。

3-2-2 相続人の連絡先がわからない

まずは手紙を出してみるのも1つの方法です。宛先不明などで返送された場合は、別の人が住んでいる可能性があり、受取拒否などの場合は、該当する相続人が住んでいる可能性があります。

そのため、何度か手紙を出すか、現地を訪れたりしてみましょう。

3-2-3 音信不通・行方不明者の場合

SNSでアカウントを作成していないかを調べたり、探偵事務所や興信所の利用も検討しましょう。

3-3 特別縁故者の確認

被相続人と生計を同じくしていた者や被相続人の療養看護に努めた者、その他、被相続人と特別密接な関係にあった人は、特別縁故者と認められる可能性が高いです。

被相続人と生計を同じくしていた者

被相続人と同居していた内縁の配偶者や事実上の養子・養親を指します。

被相続人の療養看護に努めた者

被相続人が亡くなる前、身の回りの世話を行った人や献身的に療養看護に努めた者です。

その他、被相続人と特別密接な関係にあった人

特に親しく交流していた友人や知人、被相続人の意思により遺産を分与すると伝えられた相手方などです。

ただし介護士や看護師などが仕事として看護した場合、基本的には特別縁故者にはなりません。

3-4 他の共有者に持分が帰属

共有者の一人がその持分を放棄した場合には、死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属します。

持分の放棄は、本人の意思表示のみで行うことが可能です。

3人以上で共有している場合は、放棄した持分は、各共有の持分割合に応じて帰属します。

所有者不明土地の利用・管理の円滑化を図る目的として、以下のように改正民法が令和5年4月1日に施行されました。

①共有物管理の範囲が拡大

共有物に変更を加える場合であっても、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)である場合は、持分の過半数で決めることが可能になりました。

軽微変更とは、砂利道のアスファルト舗装などが挙げられます。

②所在等不明共有者がいる場合の変更・管理

共有者の中に所在等不明共有者がいる場合、裁判所が一定期間の公告を行ったうえで、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意又は持分の過半数により、共有物の変更・管理に関する決定を行うできるという規定になりました。

③所在等不明共有者の不動産の持分を取得

民法改正により、裁判所の決定を得ることで、所在等不明共有者の不動産の持分を取得することができるという規定になりました。(民法第262条の2 )。

また、相続により不動産が共有状態になり、相続人の中に所在等不明共有者がいる場合には、相続開始から10年を経過した時に限り適用されます。(民法第262条の2)

法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」

4.相続人不在時の共有名義不動産の登記手続き

相続人不在時の共有名義不動産の登記手続きについて解説します。

4-1 相続人不存在による名義変更登記

相続財産管理人選任の審判に基づき、共有不動産の所有者名義を相続財産法人名義にするための登記を行います。

申請人の欄には、相続財産管理人選任審判書に記載されている住所、氏名を記載します。

被相続人の死亡時の住所が登記簿上の住所と異なる場合は、所有権登記名義人住所、氏名変更を行います。

相続財産管理人選任審判書を登記原因証明情報とし、代理権限証書として添付します。

4-2 共有者への持分移転登記

共有持分移転登記が必要となるケースは、以下のとおりです。

  • 共有持分を相続した
  • 共有持分の贈与を受けた
  • 共有持分を売買した
  • 共有持分を放棄した
  • 共有物分割請求により代償分割を行った
  • 離婚による財産分与で共有持分を得ている

共有持分移転登記の申請場所は、名義変更をする不動産の管轄する法務局です。

必要書類は、以下の通りです。

  • 登記申請書
  • 住民票
  • 登記原因書類(売買契約書など)
  • 印鑑登録証明書
  • 固定資産評価証明書

登記申請書は、法務局のホームページからダウンロードすることができます。

共有持分移転登記には、登録免許税が発生します。

金額は、固定資産税評価額 × 登録免許税率で算出されます。

その他、住民票や​​印鑑登録証明書、固定資産税評価証明書は300円程度、

戸籍謄本は450円程度かかるので、覚えておきましょう。

問題がなければ「登記識別情報通知書」が交付され、登記手続きが完了します。

まとめ 

相続人不存在とは、亡くなった人(被相続人)の遺産を相続する人がいない状態を指します。

相続人不在になる主なケースは、法定相続人がいない場合や全員が相続放棄をした、欠格や廃除によるものです。

相続人不在の不動産は、完全所有権の不動産は国庫に帰属するケースです。

共有者が相続人不在のまま死亡した場合の手続きは、相続財産管理人の選出、相続人の捜索、特別縁故者の確認などが必要になります。

また、共有者の一人がその持分を放棄した場合には、死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属します。

相続人不在時の共有名義不動産の登記手続きには、相続財産管理人選任の審判に基づき、共有不動産の所有者名義を相続財産法人名義にするための登記を行います。

一方、共有持分移転登記が必要となるケースは、共有持分を相続、共有持分の贈与を受ける、共有持分を売買する、共有持分を放棄した、共有物分割請求により代償分割を行った、離婚による財産分与で共有持分を得ているなどがあります。

この記事の監修者

塩谷 昌則シオタニ マサノリ

弁護士

弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。共有物分割訴訟、遺産分割調停、遺留分侵害額請求など共有持分をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。

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