共有名義アパートの家賃を独り占めする長女
共有名義アパートの家賃を独り占めする長女
ご相談内容
親が持っていた都内のアパートを兄妹4人で相続しました。
持分割合は、それぞれ4分の1ずつです。
アパートの管理は、長女がしていますが、私含め他の兄妹も家賃の分配を受けていません。
せっかくの持分の権利を活かせていないことに、不満を感じています。
何かいい得策があれば、アドバイスをお願いいたします。
ご相談のポイント
- 賃料の分配が不適切な場合
- 共有物分割請求
- 共有持分の売却
①賃料の分配が不適切な場合
不動産が共有の場合、各共有者には、持分の割合に応じて不動産を使用・収益する権利があります。
したがって、特定の共有者が賃料収入を独占していたり、あるいは、一応の分配はされているが金額が不適切である場合には、各共有者は、不当利得返還請求権に基づき、持分の割合に応じた賃料を分配するように請求する権利があります。
但し、法律上の請求権があるといっても、相手が任意に支払いに応じない場合には、自ら法的手続を行わなければならず、時間・費用の負担や、精神的な負担が生じます。
②共有物分割請求
各共有者は、いつでも、他の共有者に対して、共有物の分割請求を行なうことが可能です。(民法256条1項)
そして、共有者間で共有物の分割についての協議が纏まらない場合は、共有物分割請求訴訟を提起することが可能になります。(民法258条)
但し、裁判手続をする以上、やはり前述のような時間・費用の負担や、精神的な負担が生じることになります。
何より、原告と被告の立場になって争う以上、裁判が終結したとしても、その後の相手との個人的な関係性の悪化は避けられないでしょう。
また、共有物分割訴訟では、必ずしも自身が望む解決方法が実現するとは限らないことにも注意が必要です。
例えば、自分の共有持分を相手共有者に買い取って貰う形での解決を求めて訴訟を起こしたとしても、相手共有者に買い取る意思・能力がなければ、判決では不動産の競売が命じられることになります。
③共有持分の売却
共有者間で意見が纏まらない場合のもう1つの選択肢は、共有持分を第三者に売却することです。
共有持分の売却には、他の共有者の同意は不要です。(民法206条)
共有持分を売却した時点で、共有者の立場から抜けることになりますので、それ以降は、不動産に関して、自ら他の共有者と協議・裁判を行なう負担から解放されます。
また、共有持分の売却と併せて、前述の不当利得返還請求権等の、他の共有者に対する金銭債権を、持分の買主に債権譲渡するという方法も考えられます。
債権を譲渡すれば、それ以降は、金銭の問題についても、自ら他の共有者と協議・裁判を行なう負担から解放されます。
④共有持分の評価額の考え方
共有持分の買主は、他の共有者が存在することで、共有物を自分の自由に使えないという制約を受けることになります。
そのため、共有持分を第三者に売却する場合は、『不動産全体の価格×持分の割合』の単純な計算式から、実際の評価額は大幅に下がることになります。
これを『共有減価』と言います。
これに対し、共有者がAとBの2名だけで、AがBの持分を買い取るというケースでは、Aは100%の所有権を取得できるため、共有減価は生じません。
本件の場合は、共有者が4名いるので、仮に、ご相談者様の持分を長女が取得しても、100%の所有権にはなりませんが、共有者の頭数が減る&共有持分の割合が増えるので、完全な第三者よりは、持分を購入することに経済的メリットのある立場だと言えるでしょう。
とはいえ、あくまで長女に買い取る意思や能力がない限りは、共有持分の売却先は第三者になります。
共有減価の問題も含めて、共有持分の評価額の算定には、専門的な知識・経験が必要になりますので、共有持分の評価額の調査にあたっては、専門家である不動産鑑定士に依頼することが確実です。
まとめ
各共有者は、法律上、持分割合に応じた賃料の分配を請求する権利がありますが、その権利の実現のため自ら法的手続を取る場合には、時間・費用の負担や、精神的な負担が生じます。
共有関係の解消のため、共有物分割請求訴訟まで進む場合は、相手共有者との関係性が決定的に悪化するリスクがあります。
また、共有物分割請求訴訟では、必ずしも希望通りの解決が実現できるわけではありません。
共有持分の売却を行なえば、自身で相手共有者との間で協議・裁判を行なう負担から解放されます。
但し、共有持分を第三者に売却する場合は、共有持分の評価額に関して『共有減価』が生じます。
共有持分の評価額の算定には専門的な知識が必要ですので、専門家である不動産鑑定士に依頼するのが確実です。
この記事の監修者
社内弁護士
当社の専属弁護士として、相談者の抱えるトラブル解決に向けたサポートをおこなう。
前職では、相続によって想定外に負債を継承し経済的に困窮する相続人への支援を担当。これまでの弁護士キャリアの中では常に相続人に寄り添ってきた相続のプロフェッショナル。