共有不動産の管理費用は誰が負担する?支払いトラブルと対処法も解説
共有不動産の管理費用は誰が負担する?支払いトラブルと対処法も解説

目次
共有不動産とは、複数人が共同で所有する不動産のことを指します。
相続や夫婦・親族での共同購入などをきっかけとして生じることが多く、不動産の権利関係や維持管理にかかる費用負担などを巡り、共有者間のトラブルに発展しやすいという側面があります。
今回は、共有不動産の「管理費用」について解説します。
どのような費用が管理費に該当するのか、誰がどのくらい負担するのか、支払いに関するトラブルが起きた際の対処法など、共有不動産の管理費用に関する疑問を解消していきましょう。

共有不動産の管理費用とは
共有不動産の管理費用とは、複数の共有者で所有する不動産を適切に維持・管理するために必要な経費のことです。
詳しくは後述しますが、具体的には、毎年課税される固定資産税や都市計画税といった税金をはじめ、建物の経年劣化に対応するための修繕費、マンションであれば日々の維持管理のための管理費や、将来の大規模修繕に備える修繕積立金などが共有不動産の管理費用に該当します。
管理費用は不動産を共同で所有している以上、必然的に発生する費用であり、不動産の状態を良好に保つためには不可欠なものです。
しかし、共有者間の関係性によっては、こうした費用の負担を巡る認識のずれが生じ、支払いの滞納や思わぬトラブルに発展する可能性も考えられます。
共有不動産の管理費用は「共有持分割合」に応じて分担するのが原則
それぞれの共有者が管理費用をどれくらい支払うかは、原則として、各自が有する共有持分の割合に応じて決まります(民法第253条)。
この原則は、共有している物件に居住しているかどうかは関係なく適用されます。
つまり、自分は共有不動産に住んでいない場合も、共有名義である限り管理費用を支払う義務があるのです。
例えば、4人の共有名義で不動産を所有しているが、実際には特定の共有者の1人のみが居住しているという場合でも、原則として、4人全員がそれぞれの持分割合(例: 4分の1ずつ)に応じて管理費用を負担しなければなりません。
ただし、この民法のルールは、当事者間の合意が優先される「任意規定」とされています。
したがって、共有者全員が話し合い合意すれば、持分割合とは異なる負担割合(例えば「居住者1人が全額を負担する」など)を取り決めることも可能です。
共有不動産の管理費用を支払う方法
前述の通り、共有不動産の維持管理に必要な費用は、原則として各共有者がその持分割合に応じて負担します。
しかし、実際に多いケースは、共有者の中から代表者を1人選任し、その代表者が固定資産税であれば自治体へ、マンションの管理費であれば管理組合へ、といった形で一旦費用全額を支払い、その後、他の共有者に負担分を請求するケースです。
民法上、他人の債務(この場合は他の共有者が負担すべき管理費用)を代わりに支払った場合、その人に対して支払った額の返還を請求する権利が認められており、これを「求償権(きゅうしょうけん)」と呼びます。
この権利に基づき、代表者は立て替えた費用を他の共有者から回収します。
共有不動産の管理費用の具体例
共有不動産の維持管理にかかる費用は様々ですが、全ての費用が共有者全員で負担すべき管理費用に該当するわけではありません。
こちらでは、どのような費用が共有者全員で負担すべき「管理費用」に該当し、どのような費用が該当しないのか、具体例を見ていきましょう。
共有者全員で負担する管理費用
共有者全員で負担する管理費用は、以下の3種類です。
- 必要費
- 有益費
- その他、共有物の管理・変更に関わる費用
必要費
必要費とは、共有不動産の現状を維持するために不可欠な費用(民法上の「保存行為」にあたる費用)を指します(民法第252条第5項)。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 経年劣化による雨漏りや、壊れた設備の修理費用
- 火災保険料や地震保険料などの各種損害保険料
- 土地や建物にかかる固定資産税・都市計画税
特に固定資産税などの税金を誰か1人が滞納した場合、他の共有者もその全額について連帯して納税する義務(連帯納税義務)を負っており、最悪の場合、他の共有者の財産が差し押さえられる可能性もあります(地方税法第10条の2)。
固定資産税は通常、代表者1人に納税通知書が送付されますが、「各自で直接納付したい」「代表者の立て替え負担が大きい」といった場合、一部の自治体では、共有者全員の署名押印をして“共有資産分割納付申請”の手続きを行うことで、持分割合に応じて分割された納税通知書を各共有者に送付してもらえる場合があります。
ただし、この手続きを行っても連帯納税義務はなくならないため、もし誰かが自分の負担分を滞納すれば、他の共有者がその分を支払う義務を負うことに変わりはありません。
また、申請が認められても、適用は翌年度の課税からとなるのが一般的です。
有益費
有益費とは、不動産の維持に必須ではないものの、その不動産の価値を客観的に高めるために支出される、以下のような費用を指します。
- 省エネ設備の導入費用
- 外壁の美装工事費用
- エレベーターの設置費用
- より高性能な断熱材を入れる改修費用
- 防犯カメラやオートロックの設置費用
- 建物のバリアフリー化工事費用
なお、有益費に該当する工事や設備の導入を決定する際には、その内容が民法上の「管理行為」にあたるか「変更行為」にあたるかによって、必要となる共有者の同意の範囲が異なります。
不動産の形状または効用の著しい変更を伴わない改良(例:バリアフリー化のための手すり設置など)であれば、共有者の「持分割合の過半数」の同意で決定できる「管理行為」にあたる場合があります(民法第252条第1項)。
一方、不動産の形状や効用を著しく変更するような大規模な改良(例えば、エレベーターのない建物への新規設置など)は、共有者全員の同意が必要な「変更行為」(民法第251条第1項)に該当します。
その他の管理・変更に関わる費用
上記以外にも、共有不動産の状態を変更したり、権利関係に影響を与えたりする様々な行為があり、それに伴う費用が発生します。
これらの行為を実行するためには、その内容に応じて、各共有者が単独で行えるか(保存行為)、持分割合の過半数の同意が必要か(管理行為)、あるいは共有者全員の同意が必要か(変更行為)が民法で定められています。
以下に、具体的な行為の例、想定される費用、民法上の行為区分(可能性)、および必要となる同意レベルをまとめました。
想定される費用 | 必要な同意 (原則) ※1 | 行為の区分 (可能性) ※2 | 根拠条文 (参考) | |
大規模なリフォーム・リノベーション | リフォーム・リノベーション費用 | 全員の同意 | 変更行為 | 民法第251条第1項 |
共有建物の取り壊し | 取り壊し費用 | 全員の同意 | 変更行為 | 民法第251条第1項 |
共有不動産全体の第三者への売却 | 仲介手数料などの諸費用 | 全員の同意 | 変更行為 | 民法第251条第1項 |
不法占拠者の退去 | 訴訟費用など | 各共有者が単独 または 持分割合の過半数 または 全員の同意 | 保存行為 または 管理行為 または 変更行為 (状況による) | 保存: 民法第252条第5項 管理: 民法第252条第1項 変更: 民法第251条第1項 |
共有地の地目変更 (例:畑→宅地)に伴う造成 | 造成費用 | 全員の同意 (大規模) または持分割合の過半数 (軽微) | 変更行為 (大規模な造成の場合)または管理行為 (軽微な変更の場合) | 変更: 民法第251条第1項 管理: 民法第252条第1項 |
※1 これらの行為に伴う費用の負担は、原則として共有者それぞれの持分割合に応じて分担することになります。
ただし、そもそもその行為を実行すること自体に、表に記載した合意が必要となる点にご注意ください。
※2 表中の「行為の区分」は一般的な目安です。具体的な行為の内容や程度、状況によって「保存行為」「管理行為」「変更行為」のいずれに該当するかの判断は異なります。
共有不動産の管理費用には”該当しない”費用
共有不動産の管理にかかる費用であっても、原則として共有者全員で負担する「管理費用」とはみなされないものがあります。
例えば、実際にその不動産を使用している共有者が個人的に支払う水道光熱費などです。
これらは通常、管理会社やインフラ会社と契約した当人が負担します。
同様に、一部の共有者が、他の共有者の同意を得ずに、自身の趣味や利便性のために行った内装の変更や設備の追加費用なども、原則としてその行為を行った共有者の自己負担となります。
不動産全体の価値や機能に直接的な影響を与えないと判断されるためです。
なお、不動産管理会社への管理委託報酬は、共有者間の合意(管理方法に関する決定)に基づいて契約されたものであれば、管理費用として全員で負担するのが一般的です。
ただし、一部の共有者が他の共有者の合意なく個人的に管理を委託したような場合、その報酬は委託した共有者個人の負担となる可能性があります。
共有不動産の管理費用でよくあるトラブルと対処方法
共有不動産の管理費用を巡る共有者間のトラブルは、以下のものが代表的です。
- 管理費用の支払いに応じない共有者がいる
- 管理費用の負担割合について意見が対立する
- 必要な修繕などの意思決定ができない
管理費用の支払いに応じない共有者がいる
最も多いトラブルの一つが、一部の共有者が自身の負担すべき管理費用を支払わない、あるいは滞納するケースです。
他の共有者が立て替えている場合、その負担が次第に重くなり、不公平感から関係性が悪化しがちです。
トラブル対処方法①:話し合いによる解決を試みる
最初に行うべきは、滞納している共有者に対して、支払うべき費用の額、根拠(持分割合など)、支払期日を明確に伝え、支払いを促すことです(通知・督促)。
感情的にならず、冷静に話し合いの機会を設け、支払いが難しい理由を確認しましょう。
もし経済的な事情で支払いが困難な場合は、分割払いや支払期限の猶予、場合によっては他の共有者の同意を得て一時的に負担割合を調整するなど、柔軟な対応を検討することも解決策の一つです。
トラブル対処方法②:共有持分の「買取請求権」を行使する
共有不動産の維持管理費や税金を1年以上負担しない共有者がおり、その結果、他の共有者に不利益が生じている場合、他の共有者がその持分を強制的に取得可能な「買取請求権」を行使できます。(民法253条2項)
トラブル対処法方法③:「求償請求訴訟」を提起する
話し合いや催告をしても他の共有者が支払いに応じない場合は、既に費用を立て替えている共有者が地方裁判所または簡易裁判所に「求償請求訴訟」を提起することができます。
これは、共有物の保存や維持のために必要な費用を他の共有者の分まで支出した場合に、費用を後から請求できる法的手続きです。
この請求権には消滅時効があり、原則として立て替えた費用を請求できることを知ったときから5年、または権利行使可能なときから10年間行使しないと、時効によって消滅します(民法第166条)。
また、求償できるのは、支払われた費用が管理費用に該当し、各持分権者に不動産管理費用の支払い義務が発生するケースのみです。
なお、複数の共有者が一緒に居住している、または一部の共有者のみが単独で不動産を使用している場合には、不動産を使用していない共有者が「不当利得返還請求」を行うことができます。
これは、その不動産の使用によって得られる利益(通常は賃料相当額)のうち、自己の持分割合を超える部分について返還を求めるものです(民法703条)。
トラブル対処方法④:自分の共有持分を売却・放棄する
他の共有者との交渉や法的手続きを避け、共有関係から抜け出したい場合は、自分の共有持分を売却・放棄するという方法が考えられます。
共有者が管理費用の負担に応じてくれず、経済的な負担が増える前に、共有関係の解消を検討することは合理的な選択の一つです。
共有不動産全体の処分には共有者全員の同意が必要となりますが、個々の共有者が持つ「共有持分」のみであれば、他の共有者の同意なく単独で売却・放棄することが認められています(民法第206条、第255条)。
放棄された共有持分は、持分割合に応じて他の共有者に帰属します(民法第255条)。
しかし、単独で放棄の意思決定ができるとはいえ、実際に持分放棄の登記手続きを行う際には、他の共有者との共同申請が求められます。
また、放棄は無償の行為ですので、持分を手放しても金銭的な対価は一切得られません。
こうした点を考慮すると、可能であれば、放棄よりも共有持分を売却する方が、金銭的なメリットを得られます。
管理費用の負担割合について意見が対立する
管理費用の負担は、原則として持分割合によりますが、「実際に住んでいる人が多く負担すべきだ」「収入に応じて負担割合を変えるべきだ」など、共有者ごとに負担割合の認識が異なり、不公平感から対立が生じているケースもあります。
トラブル対処方法:事前に管理費用の負担ルールを決め、共有者全員で合意する
このような事態を避けるためるには、共有関係が始まった段階で事前に管理費用の負担ルール(負担割合、支払方法、支払時期など)について共有者全員で具体的に話し合い、合意した内容を書面(共有物管理に関する合意書など)で明確に残しておくことが極めて重要です。
もし、既に対立が生じている場合は、弁護士などの専門家に仲介してもらい、法的な観点からの解決を試みましょう。
必要な修繕などの意思決定ができない
共有不動産の管理方針、特に建物の修繕の必要性やその内容、費用負担について、共有者間で意見がまとまらず、必要な措置が取れないというケースも少なくありません。
例えば、一部の共有者が修繕を希望しても、他の共有者が費用負担に難色を示したり、修繕の必要性を認めなかったりして、意思決定ができない状況です。
トラブル対処方法:持分割合に基づいた、共有者の過半数の同意を得る(軽微な修繕の場合)
軽微な修繕であれば、全共有者の「持分の価格」に基づいた過半数の同意で実施可能です(民法第252条第1項)。
ここでいう「持分の価格」とは、各共有者が所有する所有権の割合(持分割合)のことで、単純な人数の多数決とは異なります。
例えば、Aさんが不動産の持分の6割、BさんとCさんが2割ずつを所有している場合、Aさん1人の賛成で過半数の同意が得られたとみなされます。
なお、軽微な修繕には、外壁や屋根の修繕などが該当します。
もし軽微の範囲に該当するかどうかの判断が難しい場合は、建築士や不動産鑑定士などの専門家に意見を求めることをおすすめします。
共有不動産の管理費用を支払いたくないときは?
不動産の管理費用は、共有者である限り、原則として負担義務が生じるものです。
とはいえ、「もう関わりたくない」「費用を支払い続けたくない」という心境に陥っている共有者も珍しくありません。
共有不動産の管理費用を支払いたくない場合の対処方法としては、以下の2点が一般的です。
- 自分の共有持分を他の共有者に売却する
- 自分の共有持分を第三者に買い取ってもらう
1.自分の共有持分を他の共有者に売却する
他の共有者に資力があり、かつ買い取る意思がある場合は、自分の共有持分を他の共有者に売却することも有力な選択肢となり得ます。
この方法は、買主となる共有者にとっては自身の持分が増加し、その結果、不動産に対して行使できる権利や意思決定の影響力が強まるというメリットがあります。
ただし、この方法で課題となるのが「売買価格」です。
特に共有者間に感情的な対立があると、価格交渉が難航する可能性があります。
適正な価格を把握するためには、感情論ではなく客観的な根拠に基づき交渉することが重要です。
そのため、事前に不動産鑑定士に評価を依頼することを強くおすすめします。
なお、適正価格と比較して大幅に安い価格で売却した場合、税務署から贈与とみなされ、贈与税の課税対象となる可能性(みなし贈与)があるため注意が必要です。
2.自分の共有持分を第三者に売却する
自分の共有持分のみを、共有者以外の第三者に売却する方法もあります。
共有不動産全体を第三者に売却する際には共有者全員の合意が必要ですが、自分の共有持分だけなら、他の共有者の同意を得ることなく自由に売却できます(民法第206条)。
ただし、共有持分のみを欲しがる個人を見つけることは難しいため、第三者に売却する場合の主な売却先は、不動産の「買取業者」または「仲介業者」を利用するのが一般的です。
買取業者は、その業者が直接買主となって共有持分を買い取ります。
そのため、比較的スピーディーに現金化できるメリットがあります。
しかし、買取業者は再販による利益やリスクを考慮するため、売却価格は市場価格よりも低くなる傾向があります。
一方、「仲介業者」は売主と買主の間に入り、売却活動をサポートします。
買取業者への直接売却と比べると、買主が見つかるまでに時間を要する場合もありますが、それを補って余りある大きなメリットがあります。
それは、より市場価格に近い、有利な条件での売却が強く期待できる点です。
仲介業者は広範なネットワークや販売活動を通じて、より良い条件で購入してくれる買主を探し出し、売主の代理として価格交渉も行います。
したがって、少しでも有利な条件で売却したいと考える場合には、センチュリー21中央プロパティーのような仲介業者への依頼が最適な選択肢となるでしょう。
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共有不動産の管理費用はトラブルになる前に相談しよう
今回は共有不動産の管理費用の負担ルール、費用の内訳、よくあるトラブルとその対処法、そして費用負担から解放されるための共有状態の解消方法について解説しました。
共有不動産の管理費用は、持分割合に応じて負担しますが、共有者間の合意によって柔軟に取り決めることも可能です。
しかし、実際には管理費用の負担を巡って共有者間のトラブルが発生するケースが後を絶ちません。
問題が深刻化し、訴訟などに発展する前に、まずは共有不動産の権利関係に詳しい不動産会社や弁護士などに相談してみましょう。
センチュリー21中央プロパティーは、共有持分を専門とする不動産仲介会社です。
共有不動産に詳しい弁護士が、共有者同士のトラブルや不動産売却後のトラブルの解決をサポートします。
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共有不動産の管理費用や共有関係でお悩みの方は、問題を解決するための具体的な選択肢として「共有持分の売却」を検討し、ぜひ一度、共有持分売却の専門家であるセンチュリー21中央プロパティーにご相談ください。
お客様の状況に合わせた最適な売却プランをご提案いたします。

この記事の監修者
税理士
税理士。東京都出身。中央大学法学部を卒業し、ワールド法律会計事務所代表。共有持分の相続案件で多く相談される相続税が得意分野だが、生前贈与や、親族間の不動産売買等相続対策にも豊富な経験・実績のあるスペシャリスト。