遺留分減殺請求と遺留分侵害額請求について|用語集|相続

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遺留分減殺請求と遺留分侵害額請求について

今回は、遺留分減殺請求(旧制度)と遺留分侵害額請求(新制度)について、解説していきます。この制度は、遺留分を侵害するような遺贈等があった場合に、遺留分権者の保護のため、遺留分相当の財産等を返還してもらうことのできるものです。以下、その特徴や違いについて解説してきます。

  • なお、この遺留分減殺請求の制度は、2019年7月1日に遺留分侵害額請求に改正され新制度となりました。新旧法いずれが適用になるかは、以下の時期的基準がありますので、注意が必要です。
  • 2019年6月30日以前に発生した相続⇒旧法の規定による遺留分制度(減殺請求)が適用されます。
  • 2019年7月1日以後に発生した相続⇒新法の規定による遺留分制度(侵害額請求)が適用されます。

遺留分減殺請求(旧法)

旧遺留分減殺請求権も、新法の遺留分侵害請求と同じく、遺留分を侵害されている者が遺留分を侵害している者に「遺留分相当の財産を戻せ。」と主張できる点では同じですが、旧制度では、現金ではなく、対象となる財産その物を戻せと主張できるのみでした。別にそれでもと思う方もおられるかもしれませんが、実は以下のような問題がありました。1つ、事例を挙げて考察していこうと思います。

例)A(亡き夫)が1,000万円相当の甲土地を残し、死亡しましたが、遺言でその「土地を愛人Cに遺贈する」とし、妻Bは愛人Cに対して遺留分減殺請求権を行使しました。すると、妻Bは、500万円の遺留分があり(遺留分は2分の1)、その500万円分を愛人Cに返せということができるのですが、この500万円分の現金を得られるという訳ではなく、その500万円分がBも所有権に戻ることになり、結果的には甲土地は愛人Cと妻Bの共同所有という形になってしまいました。

これにより、遺留分減殺請求権を行使すると、共有状態の発生を招き、法律関係を複雑化させてしまうというデメリットがありました。それを踏まえて、遺留分減殺請求権の制度が新しく生まれ変わることになりました。

遺留分侵害額請求権(新制度)

(遺留分侵害額の請求)

民法第千四十六条:「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。」

そこで、新制度では、現に遺留分を侵害している分について、侵害者に対して、金銭によって支払えと請求することができるようになりました。先ほどの例だと、妻Bは亡き夫の愛人Cに対して「遺留分を侵害している500万円分の金銭を支払え」と主張でき、妻Bは現実に現金を得られるようになりました。

このように金銭による解決を図ることで、共有状態の発生をできるだけ防ぐようになっています。

  • 一方で甲土地の所有権自体はすべて愛人Cとなります。
  • 旧制度は「物」その物を返還せよ、という制度であったのに対し、新制度では、「相当する金銭を返還せよ」というように、物権的請求権から債権的請求権へ変わったということもできます。
    ただ、いずれにしても、相手方が同意してくれなければ、侵害された遺留分は戻ってきません。そのような場合は、調停が必要になり、調停でも折り合いがつかない場合には裁判へと移行していきます。
  • なかなかCが支払わない場合には、Bは強制的に回収(差し押さえ等)することもできます。

遺言にどう影響?

これまで見てきたように、旧制度では、遺言を残しても結果的に遺留分に関しては関与することができず、遺留分権者が遺留分減殺請求権を行使してしまうと、不必要な共有状態を招いてしまうことがありました。

新制度においては、遺留分相当の金銭を請求できるようになったので、必要以上に共有状態を発生させることはなくなりました。また、遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという、遺言者の意思を尊重することができるようにもなったと言えます。

ただ、いずれにしても、遺言書の残し方によって、残された相続人らはトラブルに巻き込まれる可能性は否めません。そのトラブルがきっかけで、家族同士で仲たがいになってしまう可能性もあります。遺言書はそうしたトラブルの可能性も見越して作成する必要があります。

この記事の監修者

塩谷 昌則シオタニ マサノリ

弁護士

弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。共有物分割訴訟、遺産分割調停、遺留分侵害額請求など共有持分をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。

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