共有持分は時効取得できる?5つの条件と手続き・費用まで徹底解説
共有持分は時効取得できる?5つの条件と手続き・費用まで徹底解説

目次
「共有持分の時効取得ってなに?」
「共有持分は時効取得できる?」
「共有持分の時効取得ができないときはどうすればよい?」
ご自身が所有しているはずの不動産の共有持分を、実は他の方が長年占有していた、あるいは他の共有者がいるにも関わらず、特定の共有者が単独で占有しているといったケースで、時効取得によってその持分を取得できる可能性があります。 しかし時効取得を主張するためには、5つの要件をクリアしていなければいけません。
この記事では共有持分の時効取得の概要とその要件、共有持分を時効取得する際の手順やできない時の対処方法について解説します。

時効取得とは
時効取得とは、ある物を長期間にわたり占有し続けることで、その物の所有権を法的に取得できる制度です。 民法では時効取得は以下の条文で明記されています。
1 . 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 . 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
:民法第162条
条文を見る限り、10年や20年所有の意思を持っていれば時効取得できると思われがちですが、時効取得が認められるには以下の5つの要件をすべてクリアしなければいけません。
時効取得が認められる5つの要件
時効取得が認められるには、以下5つの要件をすべて満たす必要があります。
1.占有期間が一定以上あること
先程もお伝えした通り、占有期間が「20年以上」または「10年以上」なければいけません。 10年の適用を受けるためには、占有開始時に「他人のものであるとわからなかった(善意)」「そのことについて不注意がなかった(無過失)」という要件を満たす必要があります。
一方、他人のものであることを占有し始めたときに知っていた場合、占有期間が20年以上であれば、時効取得を主張することができます。
2.平穏かつ公然な占有であること
時効取得をするためには、占有が「平穏」かつ「公然」であることが条件です。
「平穏」とは、暴力的手段や脅迫などを用いず、平和的に占有していることを指します。 本当の所有者に対し高圧的な態度や暴力的なふるまい、脅しなどを行って「自身が所有者である」と主張した場合、当然ながら占有期間が長くても時効取得はできません。
「公然」とは、秘密にすることなく、占有の事実を外部から認識できる状態であることを指します。 例えば、「その場に長く居住している」「自分の家を建てている」など、自分が占有していることを第三者から見ても分かりやすい状態である必要があります。
3.所有の意思があること(自主占有であること)
時効取得をするためには、「自分が所有者である」と認識し、その意思をもって占有していること(自主占有)が必要です。 自分とは別の方が所有している状態を認識している場合(他主占有)では所有の意思が認められず、時効取得することはできません。
所有の意思は、単なる気持ち的な面だけでなく、客観的に所有者として振る舞っていると認められる行為によって判断されます。 例えば、「土地の固定資産税を支払っている」「大規模な改築・増築を行っている」「登記上自分になっていると信じている」などがあると、より認められやすくなります。
4.他主占有ではないこと
賃貸借契約などに基づいて他人の物を占有している場合は、「他主占有」に該当し、時効取得は認められません。
これは、借りている側が大家の所有不動産であると認識しているため、所有の意思がないと判断されるからです。 時効取得はあくまで「自分が所有している不動産である」と認識していることが要件です。
5.占有開始時に善意無過失であること(10年時効の場合)
占有開始時に「自分のものであると信じていた(善意)」、かつ「そう信じることに過失がなかった(無過失)」と認められる場合は、10年間で時効取得が認められます。
しかし、他人の物であると途中で判明した場合は、その時点から10年時効の要件を満たさなくなります。 「善意」か「悪意(他人の物と知っていた)」かによって時効期間が異なる点に注意が必要です。
共有持分の時効取得は可能?
2名以上で所有している共有名義の不動産の時効取得は、法的には不可能ではありませんが、現実的には難しいでしょう。
共有持分の時効取得が困難な理由
共有名義の不動産は登記簿に所有者全員が明記されているため、誰が所有しているのかは基本的に分かっていることが多いです。
登記名義人全員に固定資産税などの納税通知書が届くため、共有者は「この不動産は自分のものである」と認識しているのが通常です。 さらに、賃借人に土地を貸し出している方の多くは、賃料を請求しているため、賃借人は賃貸として借りているというケースがほとんどです。
また、相続などによって土地を取得した場合、共有名義で登記申請しているはずです。 そのため、共有名義不動産の性質上、「所有の意思」と「善意無過失」という時効取得の要件を満たすことは非常に難しいとされています。
共有名義不動産を時効取得できるケースの具体例
共有名義不動産を時効取得できる可能性のあるケースは、祖父母や曽祖父などの代から土地を相続しており、誰が共有名義人であるか、もしくは共有者がいることさえ分からず、自分のものだと長年思い込んで占有していたケースなどが挙げられます。
また、仮に共有名義の不動産を時効取得するためには正しい手順で行わなければいけません。 具体的にどのような方法であるのかは次の項で詳しく解説します。

共有持分を時効取得する手順
ここでは共有持分である不動産を時効取得するための手順について解説しますが、5つの要件をクリアしているかを専門家である不動産会社や弁護士などに相談しておきましょう。問題なければ以下の手順ですすめます。
共有持分を時効取得する手順①:時効の援用をする
始めに、法務局で保管されている登記簿謄本で共有者を調べ、時効が成立していることを主張する「時効の援用」を内容証明郵便などの書面で相手に通知しなければいけません。 時効の援用を行わないと、裁判所が時効取得の事実を考慮してくれないためです。
時効の援用とは、時効の期間が経過した権利を主張する意思表示です。 共有名義の不動産を時効取得する場合は、登記名義人である他の所有者に対して、書面で通知する必要があります。 たとえ共有者が知り合いだという理由であっても、口頭ではなく、後々の証拠となる書面でしっかり伝えることが大切です。
しかし、共有持分を所有している方が既に亡くなっていたり、登記簿に記載された住所に住んでいない場合など、相手の所在が分からないケースもあります。
その場合は、家庭裁判所へ「不在者財産管理人」の選任を申し立てなければいけません。 不在者財産管理人とは、不動産などの財産を所有している行方不明者の代わりに、その財産の管理や処分を行うことができる管理人であり、家庭裁判所が選任します。
申し立てをする裁判所は、不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所になります。 登記簿で不在者の住所地を調べ、該当する裁判所の管轄区域 | 裁判所を確認して申し立てを行いましょう。
共有持分を時効取得する手順②:所有者移転登記をする
共有持分を所有している名義人が時効取得に同意した場合は、所有権移転登記を行います。
所有権移転登記とは、不動産の所有権を保有している方の名義を変更して法務局に登記することです。
時効取得が認められ、所有権移転登記が完了すると、時効取得者はその不動産(またはその持分)の所有者として、法的な権利を持つことになります。 これにより、単独で不動産を管理・利用・処分する権利を得ることができ、他の共有者との関係を清算できる可能性があります。
ただし、時効取得の対象はあくまで「占有していた持分」に限られ、不動産全体ではない点に注意が必要です
時効取得にかかる税金
所有権移転登記を行う際は、以下の税金や費用が課せられます。
登録免許税
登録免許税とは、不動産の登記を行う際に課せられる税金で、原則として「固定資産税評価額 × 2%」の税額を納税します。 固定資産税評価額は、固定資産税納税通知書、または市役所などで取得できる固定資産税評価証明書に記載されています。
不動産取得税
不動産を取得した時に課せられる税金であり、所有権移転登記が完了してから数か月後に納税通知書が届きます。 不動産取得税は、「固定資産税評価額 × 3%(土地・住宅の場合、令和9年3月31日まで)」となります。
一時所得としての所得税
土地を時効取得した場合は一時所得として所得税が課せられます。
(一時所得の金額)=(時効取得した土地等の財産の価額)-(土地等の財産を時効取得するために直接要した金額)-(特別控除額)
課税の対象になるのは、この一時所得の金額をさらに2分の1にした金額であり、取得した翌年の確定申告で手続きを行います。 住民税も同様に課税されるため、注意が必要です。
共有持分の時効取得にかかる費用
持分移転登記の申請費用
時効取得による所有権移転登記の申請は、司法書士に依頼するのが一般的です。 司法書士報酬は、不動産の評価額や手続きの複雑さによって異なりますが、数万円から数十万円程度が目安となります。
移転登記請求訴訟の申立て費用
もし他の共有者が時効取得に同意せず、裁判で所有権移転登記を求める必要がある場合は、訴訟費用が発生します。 これには印紙代や郵便切手代などの実費のほか、弁護士費用も加算されるため、高額になる可能性があります。
共有持分の時効取得ができないときはどうする?
万が一共有者が時効取得に対して反対してきた場合はどのような対処を取ればよいのでしょうか。ここでは5つの方法を紹介します。
1.他の共有者の持分を買い取る
最も手っ取り早い方法は、他の共有者の持分を自分が買い取ることです。 買取価格は、共有者と相談して決めますが、共有者が使っていない、または今後使用予定もないという場合は、価格次第で売却してくれるケースも多いです。
持分を買取する際は、買取代金を支払うだけでなく、売買契約書を締結しなければいけません。 契約書は不動産会社が作成してくれますが、以下の費用が発生します。
- 仲介手数料
- 契約印紙代金
- 所有権移転登記費用(登録免許税含む)
- 不動産取得税
特に仲介手数料は売買代金の「3% + 6万円」と高い金額になります。 そのため、共有者から贈与してもらい、手数料などを安く済ませようと考える方もいらっしゃいます。
しかし、年間110万円以上の贈与は贈与税の課税対象となり、なおかつ相場価格より安い金額で売買すると、「みなし贈与」として贈与税の課税対象にもなりかねません。
贈与税は日本で最も税率の高い税金であるため、贈与を利用する際は不動産会社などの専門家に相談しておくことを強くおすすめします。
2.他の共有者に持分を買い取ってもらう
ご自身の持分を他の共有者に売却し、買い取ってもらう方法です。 もちろん共有者の同意が必要ですが、ご自身が不動産の取得を諦める代わりに、売却代金を得ることができるメリットがあります。 ただし、売却時には以下の税金や諸費用が課せられるため注意しましょう。
- 譲渡所得税
- 契約印紙代金
- 仲介手数料
譲渡所得税は不動産の売却によって利益が生じた時に課せられる税金です。 利益に対し、保有期間が5年以上であれば、税率20.315%(所得税・住民税・復興特別所得税の合計)を掛けた金額を納税します。
ただし、売却利益から仲介手数料などの諸費用を差し引くことができるため、売却額のすべてが課税されるわけではありません。 事前に税理士や不動産会社に計算してもらってから売却価格を検討しましょう。
3.不動産全体を売却する
共有者全員から同意を得て、不動産全体を売却する方法です。 共有持分は所有者の意思で売却することが可能ですが、共有名義の不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必須となります。
不動産は、複数人が持分を保有していた場合、売却はおろか建て替えなどにも共有者全員の同意が必要です。 1人でも反対したら売却することはできませんが、共有者が同意すれば、一つの不動産として高値で売却できる可能性があります。
4.共有物分割請求の検討
他の共有者との話し合いで合意に至らない場合、「共有物分割請求訴訟」を裁判所に提起し、共有状態の解消を求める方法があります。
裁判所が間に入り、共有不動産を売却して代金を分ける(換価分割)、あるいは一部の共有者が取得して他の共有者に代償金を支払う(代償分割)といった形で、共有関係を強制的に解消させることができます。
5.第三者に共有持分を売却する
ご自身の共有持分のみを第三者に売却することも可能です。
ただし、一般的に共有持分を専門としない通常の不動産会社では買い手を見つけるのが難しいという特徴があります。 これは、持分を取得しても、不動産全体は共有者全員の同意がなければ活用することが困難なため、買い手にとってメリットが少ないことが理由として挙げられます。
第三者に共有持分を売却する場合、センチュリー21中央プロパティーのような共有持分専門の買取業者に依頼するのがおすすめです。 他の共有者と直接話し合いをする必要がなく、手数料をはじめとした諸費用も不要なため、トラブルに発展する可能性や、経済的な負担を軽減しながら持分売却できるメリットがあります。

時効取得に関する相談先
時効取得の手続きや共有持分の問題は、専門的な知識が必要となる複雑なケースが多いです。 状況に応じて適切な専門家に相談することが、スムーズな解決への近道となります。
共有者ともめていなければ司法書士
もし他の共有者との間に特別なトラブルがなく、時効取得について同意が得られている場合は、司法書士に相談するのが良いでしょう。 司法書士は登記手続きの専門家であり、時効の援用通知作成や所有権移転登記手続きをスムーズに進めてくれます。
共有者ともめているなら弁護士
一方で、他の共有者が時効取得に反対している、あるいは共有物に関するトラブルが既に発生している場合は、弁護士に相談すべきです。 弁護士は法律全般の専門家であり、時効取得の要件を満たしているかの判断、内容証明郵便の作成、訴訟手続き、交渉など、法的な紛争解決全般をサポートしてくれます。
まとめ
共有持分の時効取得とは、10年や20年といった一定期間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者が不動産を取得できる権利です。
しかし5つの要件をすべてクリアしなければいけず、なおかつ共有持分の方は、誰が名義人であるのかを把握しているケースが多いため、現実的に制度を利用するのは非常に難しいという特徴があります。
当社センチュリー21中央プロパティーは、あなたの共有持分をトラブルなく高く売却するサポート体制を整えています。 共有者との売却交渉や時効取得の交渉なども行います。 さらに相談から売却まですべて無料でご対応させて頂いているため、共有持分の売却に関して悩んでいる方はぜひご相談くださいませ。

この記事の監修者
弁護士
エルピス総合法律事務所 代表弁護士/宅地建物取引士
東京大学法学部を卒業後、20年以上にわたり不動産法務の最前線で活躍する不動産トラブル解決のスペシャリスト。東京弁護士会に所属し、弁護士資格に加え宅地建物取引士の資格も有することで、法律と不動産実務の両面から深い専門知識と豊富な経験を持つ。
特に共有不動産における紛争解決においては、業界屈指の実績を誇り、共有物分割訴訟、遺産分割調停、遺留分侵害額請求など、複雑な案件を数多く解決に導いてきた。相続や離婚による共有名義不動産のトラブル解決に従事してきた。
著書に「事例でわかる 大家さん・不動産屋さんのための改正民法の実務Q&A」がある。メディア出演やセミナー登壇実績も多数。