遺留分 侵害額請求
(旧遺留分減殺請求)|用語集

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遺留分 侵害額請求
(旧遺留分減殺請求)

遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害するような遺贈等が行われた場合に、侵害者へ遺留分の取り戻しを請求することができる権利のことで、「遺留分減殺請求」が改正された制度です。遺留分減殺請求の時代は現物を返還するよう求めるのが原則でしたが、遺留分侵害額請求については、原則として金銭(現金)の支払いを請求することができるようになっています。

  • 2019年6月30日以前に発生した相続⇒旧法の規定による遺留分制度(減殺請求)が適用されます。
  • 2019年7月1日以後に発生した相続⇒新法の規定による遺留分制度(侵害額請求)が適用されます。

(遺留分侵害額の請求)

第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。

一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額

二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

遺留分侵害額(減殺)請求権の権利者は?

遺留分侵害額請求ができる権利者は、当然遺留分がある立場の者です(民法1046条参照)。
具体的には「兄弟姉妹以外の相続人」、すなわち、1.配偶者、2.子(代襲者・再代襲者)、3.直系尊属ということになります。たとえ相続人の一人が遺留分の放棄をしても他相続人の遺留分割合は増えない点には注意が必要です。

(遺留分の放棄)

第千四十九条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。

2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない

遺留分侵害額(減殺)請求の時効と期限

1. 遺留分侵害額(減殺)請求の時効について

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から「1年間」行使しないときは、時効によって消滅します(消滅時効)。また知っているか否かに関わらず、相続開始の時から「10年」を経過した場合も同様に権利が消滅します(除斥期間)。

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

除籍期間である10年が終了した場合には、そもそも遺留分侵害額請求ができなくなってしまいますが、遺留分侵害額(減殺)請求の1年期限が迫っている場合はとりあえず遺留分侵害額請求をしておくことで、消滅時効の進行を妨げることができます。
つまり1度遺留分を請求しておけば、遺留分侵害額請求権自体の消滅時効は防げるということです。もちろん適当な内容ではいけませんので、弁護士などの専門家に相談することをおすすめいたします。

2. 遺留分侵害額(減殺)請求の期限について

遺留分侵害額の算定に関しては、原則として相続開始前の1年間にしたものに限られます。それより前に行われていても遺留分の侵害額の算定には考慮されませんので、注意が必要です。

第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする

2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

上記条文の「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする」という部分は、たとえ1年以上前になされた贈与であっても、贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知った上で行われた贈与に関しては遺留分減殺請求の対象とすることができる、という意味です。

なお、遺留分権利者に損害を与えることを知っていたか否かの証明は、遺留分権利者が行わなければなりません。

遺留分の計算事例

遺留分侵害額がどれくらいかを計算するには、そもそも遺留分がどれくらいあるのかを計算しなければなりません。
遺留分については下記のように計算をします。

(遺留分の帰属及びその割合)

第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一

二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

相続人と遺留文割合を表した表

遺留分侵害額の計算方法

ここで一つの例を挙げて具体的に考察していきましょう。

例)まず遺産総額8,000万円、配偶者と1人の子どもが相続する場合で、愛人にすべてを遺贈するという遺言があったとします。その場合、まず法定相続分は、配偶者2分の1、子2分の1となり、遺留分はその法定相続分に2分の1を乗じる形になります。

  • 配偶者:2分の1(法定相続分)×2分の1=4分の1が遺留分、

    具体的遺留分は8000万円×4分の1=2,000万円

  •  :4分の1(法定相続分)×2分の1=8分の1が遺留分、

    具体的遺留分は8000万円×8分の1=1,000万円

配偶者及び子は愛人に対して、遺留分侵害額請求権を行使し、配偶者は2,000万円、子は1,000万円をそれぞれ取り戻すことができます。

遺留分の計算をする際の注意点

遺留分を計算する際、相続人に特別受益がある場合には、注意が必要です。特別受益とは、相続人の中に、被相続人から遺贈や生前贈与を受けた人がいる場合、その人が受けた利益のことを指します。そのような行為がなければ、被相続人が死亡した際に財産として残っている分が多くなるため、相続財産も増えるであろうという考えです。
例としては、婚姻時の費用の出費や生活のための費用の出費等があげられます。

(特別受益者の相続分)

第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし

そもそも特別受益がある場合には、みなし相続財産の金額が変わり、ひいては、遺留分侵害額の金額が変わってきます。遺留分の計算をする前に確認しておくようにしましょう。

遺留分侵害額(減殺)請求を行う3つの方法

遺留分侵害額請求を行う場合には、その侵害者に対して請求を行わなければなりませんが、その方法は特別決まっていません。口頭で伝える、電話で伝える、メールで伝える等なんでも良いとされています。ただ、後々のことを考え内容証明郵便等で、遺留分侵害額請求をしたこと、及びその内容について記録に残しておいた方がよいでしょう。

相手方の同意が取れたら、公正証書等で残しておき、後々のトラブルに備えておくことも重要なポイントです。相手方が争って来ており、折り合いがなかなかつかない場合には、遺留分侵害額(減殺)請求調停を行い、それでも折り合いがつかない場合には、裁判(遺留分侵害額(減殺)請求訴訟)を提起する他ありません。

一般的には下記のような順番で請求を行います。

  1. 内容証明郵便で「遺留分侵害額(減殺)の意思表示」を通知する。
  2. 遺留分侵害額(減殺)請求調停で請求する。
  3. 遺留分侵害額(減殺)請求訴訟を提起する。

遺留分侵害額(減殺)請求調停に必要な書類と費用

遺留分侵害について当事者間で協議が整わない場合には、調停をして、折り合いを見つける必要が出てきます。調停の申立人は遺留分を侵害された者(兄弟姉妹以外の相続人)、または遺留分を侵害された者の承継人(相続人、相続分譲受人)、申立先は相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所になります。調停に必要な書類・費用については、下記のとおりです。

費用

  • 収入印紙1,200円分
  • 連絡用の郵便切手
  • なお、弁護士や司法書士にお願いする場合には、その費用も掛かってきます。

書類

  • 申立書及びその写し(相手方の数の通数)
  • 標準的な申立添付書類

標準的な申立添付書類とは

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合には、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し
  • 遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書,固定資産評価証明書,預貯金通帳の写し又は残高証明書,有価証券写し,債務の額に関する資料等)

この記事の監修者

塩谷 昌則シオタニ マサノリ

弁護士

弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。共有物分割訴訟、遺産分割調停、遺留分侵害額請求など共有持分をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。

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