遺留分|用語集
遺留分
目次
遺留分とは、遺言書の内容にかかわらず、相続人が権利として取得できる遺産の一定割合のことをいいます。
(遺留分の帰属及びその割合)
民法1042条:「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一」
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
例えば、亡くなった父親が残した遺言書が、愛人にすべての財産を相続させるという内容だった場合に、残された妻や子が父親の財産をまったく相続できないというのは妥当ではありません。そこで用意されたのが、遺留分制度です。遺言書は法定相続分を超えての相続分指定をすることはできますが、遺留分を侵害することはできません。
実際には兄弟間で問題になるケースが多いです。例えば、「すべての財産を長男に相続させる」等の遺言があった場合がこれにあたります。
遺留分が認められる人、認められない人
民法1028条にもあるように、遺留分の権利があるのは兄弟姉妹以外の相続人、基本的には配偶者と子に限られます。
- 場合によっては、直系尊属もその権利を有することができます。
逆に兄弟姉妹以外で遺留分が認められないのは、
- 相続放棄した相続人
- 相続欠格者
- 相続人から廃除された者
- 遺留分放棄した者
です。
1. 相続放棄した相続人
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
遺留分は一定の相続人に認められるものであり、相続放棄をするとそもそも初めから相続人とならなかったものとみなすということから、遺留分についても存在しないことになります。
2. 相続欠格者
相続欠格者とは、一定の事由があったために相続権を失った人のことです。
(相続人の欠格事由)
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
3. 相続人から排除された者
相続人の廃除とは、相続人に著しい非行があった場合に、その相続人から相続権を奪うことです。
(推定相続人の廃除)
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
- なお、廃除するには裁判所への申請が必要です。
4. 遺留分放棄した者
遺留分の放棄とは、法律で用意している相続人が最低限もらえる相続財産の権利を放棄することをいいます。遺留分を放棄した場合、遺留分の権利はなくなります。なお、相続開始「前」の遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要になります。
(遺留分の放棄)
第千四十九条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
各相続人の遺留分の割合
遺留分の割合は相続人が誰かによって変わってきます。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

例えば遺産総額4,000万円を配偶者と2人の子どもで相続するはずが、遺言書で長男にすべてを相続させるという記述があった場合を考えましょう。まず法定相続分は、配偶者2分の1、長男次男4分の1となり、遺留分はその法定相続分に2分の1を乗じる形になります。そうすると遺留分は下記のようになります。
■配偶者:2分の1(法定相続分)×2分の1=4分の1が遺留分、
具体的遺留分は4,000万円×4分の1=1,000万円
■長男 :4分の1(法定相続分)×2分の1=8分の1が遺留分、
具体的遺留分は4,000万円×8分の1=500万円
■次男 :4分の1(法定相続分)×2分の1=8分の1が遺留分、
具体的遺留分は4,000万円×8分の1=500万円
長男に対して配偶者は1,000万円、次男は500万円の遺留分侵害額請求権(旧遺留分減殺請求)を行使し、相続するはずだった遺産の一部を取り戻すことができます。
- 以前は遺留分減殺請求という制度でしたが、2019年7月1日に遺留分侵害額請求に改正され新制度となりました。両者の違いですが、遺留分減殺請求の時代は現物を返還するよう求めるのが原則でしたが、遺留分侵害額請求については、原則として金銭(現金)の支払いを請求することができるようになっています。
- 2019年6月30日以前に発生した相続⇒旧法の規定による遺留分制度(減殺請求)が適用されます。
- 2019年7月1日以後に発生した相続⇒新法の規定による遺留分制度(侵害額請求)が適用されます。
遺留分侵害額請求で遺留分を取り戻す方法
先ほども出てきましたが、侵害されている遺留分を相手側に対して請求することを法律上「遺留分侵害額請求」と言います。相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅するため注意が必要です。
(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
遺留分侵害額請求の対象
遺留分侵害額請求が可能となる対象には、遺贈、死因贈与、生前贈与の3種類があります。遺贈⇒贈与の順で民法の記述が複雑になりますが、簡単に解説すると以下の通りです。
まず、対象にするのは遺言による遺贈です。遺贈とは「遺」言書で相続財産を「贈」与することを指します。
次に侵害請求の対象になるのは死因贈与です。死因贈与とは、「死」亡を原「因」として「贈与」が発生する契約のことで、例えば、私が死んだらこの土地をあなたに贈与する、というような形式の契約です。
最後に侵害請求するのが生前贈与です。生前贈与とは、生きている間に相続財産を贈与することを言います。
- 遺留分の対象となるのは基本的には、「相続開始前1年」に限られますが、贈与者と授与者両者が遺留分を侵害することを知って行った場合には、相続開始前1年よりも前であっても対象になります。
第千四十七条
受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。
一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。
二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。共有物分割訴訟、遺産分割調停、遺留分侵害額請求など共有持分をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。