「固定資産税を払っていない土地の時効取得は可能?」そんな疑問に、不動産トラブルの専門家が答えます。時効取得が認められる3つの要件、固定資産税との関係、相続した共有不動産での注意点までを判例を交えて分かりやすく解説します。
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固定資産税を払っていなくても時効取得できる?弁護士が解説

「長年住んでいる土地だから、もう自分のものだろう」
「固定資産税をずっと支払ってきたのだから、所有権を主張したい」

不動産の所有権を巡り、こうしたご相談をいただくことがあります。
特に、キーワードとなるのが「時効取得」と「固定資産税」の関係です。

この記事では、他人の不動産であっても所有権を得られる「時効取得」の制度について、成立の要件から固定資産税の支払いとの関係、相続不動産における注意点まで、法律の専門家が分かりやすく解説します。

 時効取得とは?認められるための3つの基本要件

時効取得とは、たとえ他人の物であっても、一定期間、所有者として占有し続けることで、その所有権を取得できるとする民法上の制度です。

時効取得が認められるためには、主に以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 所有の意思をもった占有(自主占有)
  2. 平穏かつ公然と占有していること
  3. 一定期間、占有を継続していること

 要件①:所有の意思をもった占有(自主占有) 

まず、「所有の意思をもって」占有していることが必要です。 これは法律用語で「自主占有」と呼ばれ、「この不動産は自分のものだ」と信じて使用している状態を指します。

例えば、賃貸マンションの入居者は、家賃を払って部屋を借りているだけであり、「自分のものだ」という意思はないため、自主占有にはあたりません。

 要件②:平穏かつ公然と占有していること 

次に、占有の状態が「平穏」かつ「公然」であることが求められます。

  • 平穏:暴力や脅迫といった違法な手段で占有を維持していないこと。
  • 公然:占有している事実を隠していないこと。

不法占拠のように、所有者と争いながら無理やり居座ったり、こっそり隠れ住んだりしているケースでは、この要件を満たしません。

 要件③:一定期間、占有を継続していること(10年または20年) 

最後に、占有を一定期間継続する必要があります。 この期間は、占有を開始したときの状況によって10年または20年と定められています。

占有期間占有開始時の状況詳細
20年悪意または有過失他人の土地だと知っていた(悪意)、または、知らなかったことに落ち度があった(有過失)場合。
10年善意かつ無過失自分の土地だと信じており、そう信じたことに落ち度がなかった(善意無過失)場合。

これは民法第162条に定められており、占有開始時に自分のものだと信じ、かつ、そう信じることに落ち度もなかった(善意無過失)場合は10年、そうでなかった場合は20年の占有で時効取得が成立します。

このように複雑な法律要件が絡むため、ご自身の状況が時効取得に当たるかどうかの判断は簡単ではありません。 少しでも疑問に思われたら、専門家にご相談ください。

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 固定資産税の支払いの有無だけで時効取得の成否は決まらない

時効取得についてよくある誤解が、「固定資産税を払っていれば時効取得できる」「払っていなければできない」というものです。

結論から言うと、固定資産税の支払いの有無は、時効取得の成否を決める絶対的な条件ではありません。
あくまで状況証拠の一つとして考慮されるに過ぎないのです。

 ケース①:固定資産税を払っていなくても時効取得できる可能性はある 

固定資産税は、その年の1月1日時点の登記名義人に対して課税されるのが原則です。 

そのため、占有者が固定資産税を支払っていなくても、他の要件(所有の意思、平穏・公然、占有期間)をすべて満たしていれば、時効取得が認められる可能性は十分にあります。

 ケース②:固定資産税を払っていても「所有の意思」の証明にはならない 

逆に、占有者が固定資産税を支払っていたという事実だけでは、直ちに「所有の意思(自主占有)」があったとは認められません。
例えば、本来の所有者に代わって立て替え払いしていただけ、という解釈もできるからです。

判例でも、固定資産税の支払いは「所有の意思」を判断する上でのプラス要素とはなるものの、それだけで自主占有を認める決定的な証拠にはならない、とされています。

このように、固定資産税の支払い状況は一要素に過ぎず、あくまで占有に至った経緯やその後の状況など、全体的な事情から「所有の意思」の有無が客観的に判断されるのです。

 【事例】兄弟で相続した実家は時効取得できる?Q&Aで弁護士が解説

ここからは、実際の相談事例をもとに、特にトラブルになりやすい「相続した共有不動産」の時効取得について見ていきましょう。

 【ご相談】兄が固定資産税を払い続ける実家。私の持分は時効取得されますか?

30年前、父親が亡くなり私と兄の2人で実家を相続しました。 

相続後は、兄が家のローンも固定資産税も全部払っています。

私は最初の1年だけ一緒に住みましたが、その後家を出てからは、その家には一切関与していません。 

この場合、共有持分の時効取得でその家&土地は兄のものになりますか?

 【弁護士の回答】共有名義の認識があるため「所有の意思」が認められず、時効取得は成立しません

ご相談のケースでは、お兄様があなたの共有持分を時効取得することは、極めて難しいと考えられます。 

なぜなら、時効取得の最も重要な要件である「所有の意思」が認められない可能性が高いからです。

そもそも共有持分も所有権の一種ですから、法律上の要件を満たせば時効取得の対象となります。
例えば、親から相続した不動産を親の単独所有だと信じて長期間占有していたところ、実は親と第三者の共有だったことが発覚した、というような場合は、相続人が第三者の共有持分を時効取得できる可能性があります。

しかし、今回のように、親から兄弟が共有の形で不動産を相続した後、一方だけが不動産を占有していた、という場合は話が異なります

ここでいう所有の意思とは、自分が真実の所有者であるという認識のことであり、他人の不動産であると認識している場合は、所有の意思は認められません。
そして、所有の意思は、内心で思っているだけでは足りず、外形的・客観的に判断されます。

今回の場合、お兄様は、相続の時点でこの不動産が「自分と相談者様の共有名義であること」、つまり「他に共有者がいること」を明確に認識した上で占有を開始しています。 

自分がこの不動産の単独所有者だと信じて占拠しているわけではありません。
おそらく不動産の登記も、相続の時点から、兄弟ご両名の共有名義での登記がされているかと推察いたします。

このような状況からは、たとえ固定資産税を全額支払っていたとしても、お兄様の占有には「所有の意思」が認められない、と判断されるのが一般的です

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今回のケースのように、時効取得が成立しない場合でも、「自分が関与していない不動産の共有者であり続ける」ことに不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。 

また、将来のさらなる相続で、関係者が増えてトラブルが複雑化するリスクもあります。

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共有持分に強い社内弁護士が常駐しているため、複雑な権利関係が絡むご相談でも、法的な観点から的確な解決策をご提案できます。 
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 時効取得を成立させるための手続きと費用

もし、ご自身の状況が時効取得の要件を満たす可能性がある場合、具体的にどのような手続きが必要で、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。

 手続きの流れ 

時効取得によって所有権を得るためには、自動的に名義が変わるわけではなく、自ら行動を起こす必要があります。

時効取得を成立させるための手続きの流れは、以下の通りです。

  1. 時効の「援用」を行う・・・
    まず、本来の所有者に対して「時効が完成したので、所有権を取得します」という意思表示(時効の援用)をします。
    後々のトラブルを防ぐため、内容証明郵便を使って書面で通知するのが一般的です。
  2. 所有権移転登記を行う・・・
    相手方が時効取得を認めれば、協力して所有権移転登記の手続きを行います。
    もし相手方が協力しない、または話し合いに応じない場合は、裁判を起こして判決を得た上で、単独で登記手続きを行うことになります。

 時効取得にかかる税金 

時効取得で不動産を得た場合、贈与や売買と同様に以下のような税金が発生します。 

  • 不動産取得税:不動産を取得した際に一度だけかかる都道府県税。
  • 登録免許税:所有権移転登記を行う際にかかる国税。
  • 所得税(一時所得):時効取得した不動産の価値が、取得にかかった費用を上回る場合に課税される可能性があります。
  • 固定資産税:取得した年の翌年から、毎年課税されます。

これらの手続きや税金の計算は非常に専門的です。
ご自身での対応が難しい場合は、センチュリー21中央プロパティーをはじめとした、共有持分の専門家のサポートを受けることをおすすめします。

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 時効取得の主張は弁護士へ。自力で進めるのが難しい2つの理由

時効取得の成立を主張し、実際に所有権を得るまでの道のりは決して平坦ではありません。 自力で進めるのが難しい主な理由は、以下の2つです。

  1. 最難関である「所有の意思」を客観的に証明する必要があるため
  2. 相手方との交渉や、訴訟への発展が避けられないケースが多いため

 理由①:最難関である「所有の意思」を客観的に証明する必要があるため 

時効取得の成否を分ける最大のポイントは、「所有の意思」があったことを客観的な証拠で証明できるか、という点にあります。 

単に「自分のものだと思っていた」と主張するだけでは不十分です。

占有を開始した経緯、固定資産税の支払い状況、不動産の管理状況など、様々な事実を積み重ねて、第三者である裁判官を納得させる必要があります。 

こうした法的な主張や立証活動は、法律の専門家である弁護士でなければ極めて困難です。

 理由②:相手方との交渉や、訴訟への発展が避けられないケースが多いため 

時効取得を主張するということは、現在の登記名義人から所有権を奪うことを意味します。 

そのため、相手方が素直に協力してくれるケースは稀で、当事者間の交渉はほぼ必須となります。
話し合いがまとまらなければ、最終的には裁判で争うことになりますが、これもまた専門的な知識と多大な労力を要します。

感情的な対立も生まれやすい時効取得のトラブルは、初期段階から弁護士を代理人として立て、冷静かつ法的に交渉を進めることが、スムーズな解決への一番の近道です。

 まとめ

不動産の時効取得と固定資産税の関係について重要な、重要なポイントは以下の通りです。

  • 時効取得の成立には「①所有の意思」「②平穏・公然」「③一定期間の占有」の3要件が必要。
  • 固定資産税の支払いの有無は、時効取得の成否を決める絶対的な条件ではない。
  • 相続した共有不動産では、共有の認識があるため「所有の意思」が認められにくい。

時効取得が成立するかどうかの判断は、個別の事情に大きく左右されるため、非常に専門的です。
また、記事中の事例のように、時効取得の問題は共有持分のトラブルと密接に関わっていることが少なくありません。

「自分のケースは時効取得できるだろうか?」
「関わっていない共有不動産をどうにかしたい」

そのようなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、共有持分専門の不動産仲介会社であるセンチュリー21中央プロパティーにご相談ください。

当社には共有持分トラブルに精通した社内弁護士が常駐しており、いつでも法的な観点から最適なアドバイスが可能です。
初回のご相談から売却に至るまで、お客様にご負担いただく諸費用は一切ございませんので、共有持分のトラブル・売却でお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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この記事の監修者

塩谷 昌則

弁護士

エルピス総合法律事務所 代表弁護士/宅地建物取引士
東京大学法学部を卒業後、20年以上にわたり不動産法務の最前線で活躍する不動産トラブル解決のスペシャリスト。東京弁護士会に所属し、弁護士資格に加え宅地建物取引士の資格も有することで、法律と不動産実務の両面から深い専門知識と豊富な経験を持つ。

特に共有不動産における紛争解決においては、業界屈指の実績を誇り、共有物分割訴訟、遺産分割調停、遺留分侵害額請求など、複雑な案件を数多く解決に導いてきた。相続や離婚による共有名義不動産のトラブル解決に従事してきた。

著書に「事例でわかる 大家さん・不動産屋さんのための改正民法の実務Q&A」がある。メディア出演やセミナー登壇実績も多数。

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