共有持分の処分を徹底解説!売却・放棄・分割の全知識とトラブル解決法
共有持分の処分を徹底解説!売却・放棄・分割の全知識とトラブル解決法

目次
「共有持分を相続したが、共有者とトラブルになり処分したい」 「離婚することになり、自身の共有持分を処分したい」
このように、1つの不動産を複数人で所有しているが故に、トラブルになりやすいのが共有名義不動産です。トラブルから抜け出すため、あるいはトラブルを未然に防ぐために、共有持分の処分を考える方も多くいらっしゃいます。
本記事では、共有持分の処分方法、そして共有状態の解消方法について解説していきます。 共有持分の処分をご検討の方は、どの方法が最も自分に適しているか参考にしながらご覧ください。

自身の共有持分の処分は自由にできる
共有持分は、自身の持分のみであれば、他の共有者の同意なく、自由に処分することができます(民法第206条)。 「共有名義の不動産なのに、勝手に売却していいの?」と不安に思う方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、共有持分の概要とルールを解説していきます。
共有持分とは何か?
共有持分とは、1つの不動産を複数人で所有している際のそれぞれの所有権割合のことを指します。 共有持分が発生する理由は、大きく2つあります。
相続によるもの
1つ目が不動産を相続した場合です。 例えば、親が亡くなり兄弟で実家を相続した場合などが挙げられます。共有持分が発生するきっかけの9割が相続になります。
夫婦での不動産購入によるもの
2つ目が夫婦で不動産を共同購入した場合です。 例えば、夫婦それぞれで資金を出し合ってマイホームを購入した場合などが挙げられます。
共有持分の管理ルールと民法改正
共有名義の不動産の場合、当然ながら単独名義とは異なるルールがあります。 簡単に言うと、共有名義不動産には自分一人の意思ではできない行為があります。
下記の図で言うと、不動産全体の管理行為や変更行為は自身の単独の意思では実施できません。

例えば、共有名義不動産全体を売却したり、大規模なリフォームをしたり、第三者に賃貸で貸し出したりする場合、共有者全員の同意が必要になります。
また、共有物の管理ルールは、2023年4月1日に施行された民法改正で以下の変更がありました。
- 変更行為について、形状又は効用の著しい変更を伴わない場合(軽微変更)は、持分の過半数で決定できる(新民法251条1項、252条1項)。
- 共有者間の定めがない状態で、特定の共有者が共有物を使用している場合、過半数の同意で管理行為を決定することができる(新民法252条1項)。
- 賃借権について、一定期間の賃借であれば、管理行為とみなし過半数の同意で決定できる(新民法252条4項)。
このように、単独名義とは異なり、自分の意思だけで自由に不動産を扱うことができない制限があるため、共有名義不動産の処分や管理を巡り、共有者間でのトラブルがしばしば発生するというわけです。
【事例解説】共有持分を処分する際のポイント
実際の事例でわかりやすく解説していきましょう。
Aさんは、甲不動産(土地)をBと二人で共同所有していますが、共有関係を解消したいと考えています。 どのような方法、または注意点がありますか?
※登記はA(自分)、B(兄)の共同名義甲不動産を土地の持分2分の1ずつで共同名義にしています。
※共有物については、共有者がそれぞれ「持分」という権利を有しています。

この場合に、共有持分を処分する際のポイントは以下の3つです。
- Aさんの持分のみであれば、自由に処分が可能。
- 処分の方法は、複数ある(後ほど詳しく解説します)。
- Aさんが持分を処分することで、共有状態の解消ができる。
持分は、各共有者の所有権なため、「自分の持分を処分する」こと自体は、各持分権者の自由です。つまり、本件では自己の土地持分については、その処分は単独(自分一人で)できます。
各共有者の持分は、相等しいものと推定する。
では、共有物の全部を処分してしまうことはできるかというと、
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
としています。売却等の「処分」は、共有物の最大の「変更」行為にあたるため、「他の共有者の同意を得なければ」することができません。
上記のように、土地全体を売却する場合には全員の同意が必要になりますが、自己の土地持分のみであれば単独で処分することが出来ます。
次の章では、処分の方法について具体的に見ていきましょう。
共有持分を処分する5つの方法
共有持分を処分する方法については、大きく5つあります。 他の共有者と意見が割れ、話し合いがまとまらない場合は、自分の持分のみを処分するのが賢明でしょう。
ここでは、自分の共有持分のみを処分する方法を中心に5つ紹介します。
1. 自分の共有持分を売却する
1つ目は、持分を売却する方法です。 売却先は、親族や知り合い、または第三者という選択ができます。
共有持分の売却は、通常の不動産売買とは異なり、法律や権利関係が複雑であるため、一般的な不動産会社では、相談を断られてしまうケースが多いです。 売却の方法については、共有持分を専門に取り扱う不動産会社や買取業者へ相談するのがおすすめです。
2. 自分の共有持分を放棄する
2つ目は、持分を放棄する方法です。 共有持分を放棄する場合、所有権移転登記をおこないます。
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
但し、所有権移転登記の手続きには、「持分を放棄する旨を伝えること」と「登記申請に必要となる書類の受け渡し」など、他の共有者の協力が必要なため、協力してもらえない場合は有効的な選択肢ではありません。
3. 自分の共有持分を贈与する
3つ目は、持分を贈与する方法です。 売却と同様に、親族または第三者に対し、無償で贈与ができます。 但し、譲渡した相手には贈与税がかかるため、相手の同意は必要不可欠です。
また、贈与なので売却とは異なり、当然ながら金銭的な対価を得ることはできません。
4. 他の共有者へ売却する
共有持分の処分方法として、他の共有者に売却することも可能です。 この方法は、共有関係を完全に解消できるため、最も円満な解決策の一つとなります。 ただし、他の共有者に購入意思と資金力があることが前提となります。 価格交渉や引き渡し時期など、細部の調整が必要になるため、弁護士や不動産鑑定士などの専門家を交えて話し合うとスムーズに進むでしょう。
5. 【土地の場合】分筆して単独名義で売却する
土地の共有持分を所有している場合、分筆(ぶんぴつ)によって共有状態を解消し、自分の名義で売却する方法があります。 分筆とは、登記されている一筆の土地を複数に分割し、それぞれを独立した土地として登記することです。 これにより、自分の共有持分に該当する部分を単独名義の土地として売却できるようになります。 ただし、分筆には測量や登記手続きが必要であり、土地の形状や接道状況によっては分筆が困難な場合もあります。 また、分筆後の土地の価値が下がってしまうリスクも考慮しなければなりません。

その他の共有状態を解消する方法
ここまでは、自分の意思のみでできる選択肢を紹介してきました。 但し、共有状態を解消するという目的においては、他の方法でも達成することができます。
ここでは、共有状態の解消方法について紹介します。
1. 不動産を分割する(共有物分割請求)
1つ目は、不動産を分割して、共有関係を解消する方法です。 不動産の分割とは、具体的に3つの方法があります。
- 現物分割
- 代償分割(価格賠償)
- 換価分割(代金分割)
現物分割 | 代償分割 | 換価分割 | |
概要 | 土地を分筆してそれぞれの土地を単独所有にする | 1人が他の共有者に持分の代償金を支払って単独所有にする | 競売にかけて売却し、売却代金を共有持分に応じて分配する |
メリット | 共有者全員に不動産が残る | 不動産を売却せずに守ることができる | 金銭ベースで公平な分割ができる |
デメリット | 土地を分筆できない場合がある | 代償金を支払えない場合がある | 市場価格より安く不動産を手放すことになる |
共有者間で、話し合いがまとまらない場合は、「共有物分割請求訴訟」をおこないます。
共有物分割についても、2023年4月に下記の内容で民法改正がありました。
- 協議に応じない共有者がいる場合でも、裁判による共有物分割ができる(新民法258条1項)。
- 裁判による共有物分割の方法として、代償分割(価格賠償)が可能である旨が明文化された(新民法258条2項)。
- 現物分割、代償分割(価格賠償)のどちらもできない場合、または分割によって共有物の価格を著しく減少させるおそれがある場合に、競売分割をおこなう旨、分割方法の検討順序が明確された(新民法258条3項)。
- 共有物分割の裁判において、裁判所が当事者に対して、金銭の支払い、物の引き渡しを命ずることができる旨、明文化された(新民法258条4項)。
共有物分割請求の流れ
共有物分割請求訴訟は、一般的に以下の流れで進行します。
- 協議による解決の試み:
まずは共有者間での話し合いを通じて解決を目指します。 - 調停の申立て:
協議がまとまらない場合、家庭裁判所に共有物分割調停を申し立てます。 - 訴訟の提起:
調停でも合意に至らない場合、地方裁判所に共有物分割訴訟を提起します。 - 判決または和解:
裁判官が分割方法を判断し判決を下すか、当事者間で和解が成立します。
共有物分割請求訴訟にかかる費用
共有物分割請求訴訟には、主に以下の費用がかかります。
- 印紙代:
訴訟の提起に必要な手数料です。不動産の価額によって変動します。 - 郵券代:
裁判所からの書類発送などに使われる郵便切手代です。 - 弁護士費用:
弁護士に依頼する場合にかかる費用です。着手金、成功報酬、日当などがあります。 - 鑑定費用:
不動産の評価額を算定するために不動産鑑定士に依頼する場合にかかる費用です。
2. 不動産全体を売却する
2つ目は、共有名義不動産全体を売却する方法です。 共有者全員が同意してくれる場合は、最も理想的な解決方法です。
もちろん、先述した通り持分のみを売却することは法律上可能です。 しかし、共有持分は買い手が見つかりにくいという側面があります。なぜかと言うと、共有持分だけを購入しても、他の共有者の同意がなければ不動産の活用ができず、資産価値が低いからです。 当然、売買価格も不動産全体での売却額よりも低くなります。
一方で不動産全体を売却することができれば、通常の不動産売買と何ら変わりはなく、資産価値も高い状態での取引が可能です。
共有持分の処分に関するよくある質問
ここでは、共有持分の処分についてよくある質問にお答えします。
他の共有者に無断で自分の共有持分を売却しても良いですか?
はい、ご自身の共有持分だけであれば、他の共有者の同意を得ることなく、自由に売却できます。 ただし、実際に共有持分を購入する第三者は限られており、多くの場合、共有不動産全体を有効活用できないリスクを負うことになります。 そのため、共有持分のみを買い取る専門業者へ売却するか、他の共有者との話し合いを通じて全体を売却する方向で検討するのが現実的です。
抵当権のついた共有持分の処分は可能ですか?
はい、抵当権が付いている共有持分でも処分は可能です。 ただし、抵当権が付いている不動産は、もし債務が返済されなかった場合に、抵当権者がその不動産を競売にかける権利を持つため、買い手が見つかりにくい傾向があります。 売却する際には、抵当権を抹消するか、抵当権が付いたままで買い取ってくれる業者を探す必要があります。 専門の不動産会社や買取業者に相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
マンションの処分は区分所有権・敷地利用権・共用部分のセット?
マンションの場合、建物の一室を所有する「区分所有権」と、その建物が建っている土地を利用する「敷地利用権」が一体となっています。 また、廊下や階段、エントランスなどの「共用部分」も、区分所有者全員で共有する形になります。 マンションの共有持分を処分する際は、これらの権利がセットになっているため、単に土地の共有持分を処分するのとは少し異なります。 マンション全体の売却には、区分所有者全員の同意が必要となることが多いですが、自身の区分所有権(共有持分を含む)は、原則として自由に処分できます。
共有持分の処分時に他の共有者とのトラブルを防ぐポイント
共有名義不動産の処分は、他の共有者との人間関係が絡むため、トラブルに発展しやすいものです。 ここでは、トラブルを未然に防ぐためのポイントをご紹介します。
共有者と今後の活用方法を確認する
共有持分の処分を検討する前に、他の共有者と不動産の今後の活用方法について話し合うことが重要です。 例えば、「賃貸に出したい」「売却したい」「誰かが住み続けたい」など、それぞれの希望や考えを事前に確認することで、後のトラブルを避けられます。
共有者へ事前に伝える
ご自身の共有持分を売却や贈与などで処分する際は、他の共有者へ事前にその意思を伝えましょう。 たとえ法的に同意が不要な場合でも、事前の連絡は信頼関係を維持し、不必要な誤解や不満を防ぐ上で非常に有効です。 可能であれば、書面で通知するなど、記録に残る形で伝えることをおすすめします。

まとめ
共有名義不動産は、自分の持分のみであれば、自由に処分が可能です。
自分の持分の主な処分方法としては、以下の5つがあります。
- 自分の共有持分を売却する
- 自分の共有持分を放棄する
- 自分の共有持分を贈与する
- 他の共有者へ売却する
- 【土地の場合】分筆して単独名義で売却する
持分の処分以外にも、共有状態を解消する方法があります。
- 不動産を分割する(共有物分割請求)
- 不動産全体を売却する
共有名義不動産は、他の共有者との権利関係が複雑なため、トラブルに発展しやすいリスクがあります。 共有関係を解消したい、共有持分を処分したい場合は、専門的な知識と実績を持つ弁護士や司法書士、または共有持分を専門に取り扱う不動産会社への相談が一番の近道です。
センチュリー21中央プロパティーは、共有持分に関するトラブル解決実績が豊富です。 お電話や対面でのご相談希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者
代表取締役 /
宅地建物取引士
CENTURY21中央プロパティー代表取締役。静岡県出身。宅地建物取引士。都内金融機関、不動産会社を経て2011年に株式会社中央プロパティーを設立。共有持分を始めとした相続トラブル・空き家問題の解決と不動産売買の専門家。主な著書に「[図解]実家の相続、今からトラブルなく準備する方法を不動産相続のプロがやさしく解説します!」などがある。