親族相盗例をわかりやすく解説|共有名義不動産で起きた窃盗事件|弁護士Q&A
親族相盗例をわかりやすく解説|共有名義不動産で起きた窃盗事件
目次
「親族間での窃盗や横領は、罪に問えるのだろうか?」
「親族間では刑罰が免除されると聞いたが、なんとか告訴できないのだろうか……」
このように、親族間での犯罪トラブルで困っている方は多いのではないでしょうか?
親族間での窃盗は、警察に被害を訴えても立件されません。なぜなら、親族間における犯罪行為に対しては、「親族相盗例(しんぞくそうとうれい)」が適用されるからです。
親族相盗例とは、一定の親族間で罪を犯した場合に、行為者に対して刑罰を免除する特例です。中央プロパティーにも、「相続をめぐって親族間でのトラブル・犯罪行為が発生して困っている」と相談にこられる方が増えています。
親族相盗例は、適用される親族の範囲と犯罪について事前の理解が重要です。そこで本記事では、親族間でのトラブルに多い親族相盗例について、事例を用いて詳しく解説します。
1.親族相盗例とは
親族間で起きた犯罪行為に対して適用される特例が、親族相盗例です。しかし、親族間で起きた犯罪であっても、すべての犯罪に適用されるわけではありません。
親族相盗例の概要と適用される親族の範囲、適用される犯罪などを詳しく解説します。
1-1.親族相盗例とは
親族相盗例とは、刑法第244条1項に定められた「親族間の犯罪に関する特例」を指します。
一定の親族間で罪を犯した場合に、行為者に対して刑罰の免除や被害者からの告訴がなければ起訴できないとする特例です。
例えば、ある家庭内で18歳の子どもが親の財布からお金を盗んだとします。何度注意しても、窃盗行為は止まらず継続され、親も警察への被害届の提出を考えたとします。
このケースでは、息子の窃盗罪が成立しますが、親族相盗例の適用により刑が免除されるため、警察に通報しても立件される可能性は低いです。
1-2.親族相盗例が適用される親族の範囲
親族相盗例は、親族であれば誰にでも適用されるわけではなく、配偶者・直系血族・同居の親族に限られます。
図1に親族の範囲を用いて詳しく解説します。
(図1_親族相盗例における親族の範囲)
配偶者とは、法律上の婚姻関係者のことです。そのため、元配偶者や婚姻を前提とした婚約者・同棲相手は含まれません。たとえ同居していても、婚姻を結んでいない内縁の妻や事実婚の関係にある者も該当しません。
直系血族とは血のつながりがある親族のうち、本人を中心に直接の上下関係にあるものを指します。具体的には、図1の青枠で囲っている父母・祖父母・子ども・孫などが直系血族です。
また、養子縁組は血縁関係がありませんが、法律上の血族に含まれるため直系血族と考えます。
同居の親族には、六親等以内の血族と三親等以内の姻族が含まれます。六親等以内の血族は、直系血族に加えて図1で緑枠で囲っている、兄弟姉妹・叔父・従兄弟・姪などです。
姻族は、配偶者側の血縁者を指します。例えば、図1の赤枠で囲っている配偶者の父母・祖父母・養子縁組を結んでいない連れ子などが該当します。
これらの血族と姻族のうち、本人と同居している者が親族相盗例の対象です。
1-3.親族相盗例が適用される犯罪
図2で記載している犯罪は、親族相盗例が適用されます。
(図2_親族相盗例が適用される犯罪)
上記した犯罪はすべて、財産にかかわる「財産犯」という犯罪です。一定の親族間での金銭的な犯罪に対しては「法律は介入せずに、家庭内で解決をする」考え方が一般的です。
ただし、親族が預かっていた第三者の財産を盗んだ場合は、親族相盗例には該当せず刑事罰を受けます。また、たとえ親族の所有物でも、第三者が預かっておりその第三者から奪った場合も同じく刑罰は免除されません。
暴行罪や傷害罪、殺人罪、放火罪といった他人の心身に影響を及ぼす犯罪に対しても、親族相盗例は適用されません。
1-4.民事ではどうなる?
犯罪行為は、刑事事件と民事事件に分けて考えます。刑事罰の有無にかかわらず、民事責任は残ります。親族相盗例は刑法上の刑罰が免除される特例であり、民法上の責任を免れるわけではありません。
つまり、たとえ刑事事件として起訴されなくても、民事責任として損害賠償請求や盗まれたものの返還請求は受けると覚えておきましょう。
2.共有名義不動産で発生した親族相盗例のトラブル事例
ここでは、弊社にご相談があった親族相盗例に該当するケースを解説します。依頼内容と依頼者の質問、質問に対する答えを詳しく解説しているので、参考にしてください。
2-1.同居の家族による窃盗トラブル
父親名義の400㎡の宅地があり、父親の死亡に伴い、法定相続分通りの割合で相続をしました。それぞれ「持分」として登記しました。
この土地には、兄夫婦が親と同居で30数年暮らし、今も居住しています。
その間、2人の子どもの養育と世帯の食事含む家事のほとんどを母が担ってきました。
ところが、2年前に母の金庫のお金、タンス預金、財布の現金(合計約2,000万円)が次々に無くなる事件が発生しました。
どう見ても内部犯行と思われ、同居している兄夫婦を問い詰めましたが、「知らない」の一点張りで、白黒をはっきりさせるため、私と母で警察に届け出ました。
2-2.共有持分は売却できる?
兄の行為は罪(窃盗罪)になりますか?
そのあと、警察への届け出が発覚し、怒りが収まらない兄夫婦は母親を追い出しました。母を追い出した兄夫婦は親父の遺産金のほぼすべて(数千万円)を独り占めしていると思われます。
というのも母のタンス預金がなくなったころから2人は海外旅行に行き始め生活も派手になったのが明らかだったためです。
そこで、兄達を追い出すために、土地の所有権3/4(母と私の持分:権利書所有)を売却すれば他人(不動産業者)の権利物件となり、住み続けるのが困難になるのではと思っています。
上記の通り、約108坪の土地に親父や母の了解を得ず、20年ほど前に兄が増築で建てた家があり、家屋は未登記状態で兄夫婦2人が居住しています。
そして、土地は共有物件で登記済みです。母は追い出されており、私は、養子で家を出ております。 このような土地の所有権(3/4)だけを売却できますか。
また、売却したあとの法律関係はどのようになりますでしょうか。
(1)について(窃盗罪の成否)
(窃盗)
刑法235条:「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」
とあります。「窃取」とは、「占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除して、目的物を自己または第三者の占有に移す行為のこと」(判例より引用)を言います。本件で、仮に兄が行った行為が事実だとすれば、兄の行為は「窃取」であり、窃盗罪に当たります。
しかし、刑法には以下の規定があります。
(親族間の犯罪に関する特例)
民法244条:「配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。」
兄は母親の金品を摂取しており、兄と母親は直系の血族関係に当たります。そうすると、窃盗罪が成立したとしても、なんと刑は「免除」されてしまうのです。
その理由は、権力は家庭内のことには、なるべく介入しないようにすべきだというのが、立法の大きな理由とされています。
窃盗程度であれば、家庭のなかで解決すべき話だということです。よって、残念ながら兄の行為は窃盗罪として処罰されません。
もちろん刑事責任は問えないとしても、兄に対して民事責任(不法行為や不当利得に基づく損害賠償請求)を問えます。
(2)について(3/4の共有持分の売却ができるか)
共有持分はその持分のみの売却が可能です。ただし、
(共有物の使用)
民法249条:「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」
とあるように、持分がいくら少なくても持分を持っているだけで、その共有物(本件では不動産)の全部を使用できます。完全な所有権を売却する場合とは異なり、制限があるため、共有持分のみの売却だと通常よりも安い金額での取引が多いのが実情です。
2-3.共有持分売却後の権利関係はどうなる?
無事3/4の共有持分が第三者(C)に売却できたとします。当然、所有権(3/4)については、Cに移転し1/4については兄のままになり、1/4の持ち分を持つ兄とCの共有関係になります。
兄は本件土地に家を建てて住んでおり、土地に対する共有持分1/4では家を存続できず、Cに対して利用料を支払うことになると考えられます。
これが成立する場合、兄は利用料を払えば継続して本件土地に住み続けられます。
Cが共有物の分割請求をする場合
(共有物の分割請求)
民法256条:「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。」
仮にCが共有物の分割を兄に求めたとします。おそらく兄は応じず、どうしても分割したい場合、Cは共有物分割請求訴訟を提起するしか方法がありません。
この場合でも裁判所は、家を取り壊す判断をするとは考えにくいです。
(裁判による共有物の分割)
民法258条:「共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。」同条2項:「前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。」
とあります。土地の全部を競売に付し、第三者が買い取った場合、その第三者が兄に対して「出て行け」と言えば、住み続けられません。以上のように、兄を本件土地から追い出すには相当の労力がかかります。
3.親族相盗例で告訴したい場合
親族間での話し合いが通じない場合は、告訴したいと考える方も多いのではないでしょうか?
親族相盗例に該当した場合の告訴は簡単ではありませんが、告訴する場合の方法と注意点を解説するので、参考にしてください。
3-1.まずは弁護士に相談
親族間のトラブルは、身内では解決できないケースも少なくありません。
身内だけでは、法律がかかわる問題を客観的な視点で冷静に議論するのが困難です。
前章の事例のように、盗んだ金品の返還を求めても、要求に応じないケースも珍しくありません。なかには、親族相盗例の特例を誤解して「家族であれば返さなくても罪に問われない」と考える方もいます。
当事者だけでは話が進まず、被害者側もどのように行動すべきか分からない場合が多いでしょう。
そのため、告訴を考えた場合は、法律の専門家である弁護士に相談しましょう。弁護士であれば、あらゆるケースを想定したアドバイスをしてくれ、実際に解決に向けて動いてくれます。
3-2.告訴期間に注意
家族間での窃盗において、加害者を告訴する場合は告訴期間に注意しなければなりません。
告訴期間は、刑事上の時効と民事上の時効に分かれます。
そもそも告訴とは、被害者が加害者を認識し、警察に対して犯罪被害の報告と加害者への刑罰を求めることを指します。刑事上の時効である告訴期間は、加害者を認識してから6ヵ月と定められています。
民事上の時効は、損害賠償請求の消滅時効を指します。損害賠償請求とは、窃盗などの違法行為によって、被害者が負った損害を加害者に賠償請求できる権利です。
この権利は、被害者が損害自体と加害者を認識してから3年間、もしくは被害の発生から20年間が期限です。
告訴する際には、刑事上の時効である告訴期間と民事上の時効である損害賠償請求の消滅時効に注意しておきましょう。
3-3.損害賠償請求は可能
親族相盗例は、刑事罰には問えなくても、民事上の損害賠償請求は可能です。民法の規定には、たとえ親族間であっても責任を免除する特例はありません。
そのため、民事で訴えると損害賠償請求や盗んだ財産の返還請求が行えます。
まとめ
本記事では、親族間の刑事罰を免除する特例である「親族相盗例」について解説しました。
家族間での窃盗などの場合「家庭内のことは家庭内で解決し国家権力が介入しないのが適切」という考え方がされます。そのため、家族による窃盗を認識し、警察に被害届を提出しても受理されないケースも少なくありません。
しかし、刑事罰を免除されても、民事で損害賠償請求や財産の返還請求を行える可能性があります。
当事者間では、事実確認や話し合いがうまく進まない可能性も高いため、親族相盗例では弁護士などの専門家への相談をおすすめします。
中央プロパティーでは、親族間での共有持分トラブルを多く解決してきました。共有者とのトラブルや共有持分の売却のご相談は、当社へご依頼ください。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。共有物分割訴訟、遺産分割調停、遺留分侵害額請求など共有持分をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。