共有物分割請求とは?|法律・税金

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共有物分割請求とは?

共有物分割請求訴訟とは、共有物の分割について共有者間の協議がまとまらない場合にその分割を裁判所に請求することができる制度のことをいいます。

共有物分割請求とは|1.共有物分割請求訴訟とはのイメージ

(裁判による共有物の分割)

民法第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる

2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

訴訟の形式で行われますが、通常の訴訟事件に比べ、裁判官の裁量の範囲が非常に広くなっているのが特徴です。また通常の訴訟とは異なり、「共有物分割の訴えにおいては、単に共有物の分割を求める旨を申し立てれば足り、分割の方法を具体的に指定することは必要でない」とされています。

分割方法は訴状に記載すべきですが、その内容が具体的に明示されていても、当事者としての提案の意義を有するにとどまり、裁判所の判断内容を法的に拘束するものではありません。

例えば、相続で共有状態とされた建物・土地について、現物分割を求めたとしても、競売を求めたとしても、裁判所は代償分割などの判決を出すこともあるということです。
もちろん裁判所も当事者の希望を尊重しようとはしますが、裁判所の心証が常に明示されるわけではありません。

共有物分割請求が望まれる事例

例えば共有者ABCがおり、Aは現物分割をしたい、Bは換価分割をしたい、Cは分割には反対、というケースでは分割方法の協議は整いません。こういった場合に共有物分割請求を行います。
特に、相続によって共有が発生した場合は、分割方法でもめてしまい、いくら話し合っても解決できないことが多いです。

共有物分割請求とは|2,共有物分割請求が望まれる事例のイメージ

共有物分割の手順

大きく分けると1. 当事者間の協議(話し合い)、2. 分割調停、3. 訴訟、4. 判決という手順になります。

1. 当事者間の協議

共有物の分割については、必ず裁判によらなければいけないわけではありません。当事者間で分割方法が同意できれば、その合意内容で分割することができます。しかし、当事者間で話し合いがまとまらない場合には、調停や裁判による分割方法を考えなければなりません。

2. 共有物分割調停

共有物分割調停は調停委員が間に入り話し合いを継続していく形になります。話し合いの延長線上であるため、調停の場合も共有者間で分割方法について同意ができなければ意味はなくなってしまいます。

3. 共有物分割訴訟

調停でも意見がまとまらなかった場合、裁判を行う必要があります。ちなみに共有物分割訴訟については、調停前置主義はとられていません。初めからいきなり裁判を提起することも可能です。

  • 調停前置主義とは、裁判を提起する前に必ず、調停を先に実施したうえでなければ、裁判ができないという原則です。

4. 判決

次の項目で、裁判による共有物分割について解説していきます。

共有物分割の方法(判決)

共有物分割請求訴訟では、どのような内容の判決が出されることになるのでしょうか。

民法258条2項:「前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。」

上記をみると、現物分割と競売の二つの方法しか認めていないように思えますが、実は代償分割という方法もあります。
ただし共有物分割請求訴訟においては現物分割が原則であるため、裁判官の思考としては、まず現物分割を検討し、それができない場合に初めて他の分割方法(代償分割・競売)が検討されることになります。

例えば、現物分割を求める場合、相続で共有とされた不動産について、土地を分筆するための地積測量図、境界確認書等、建物を区分登記するための建物図面及び各階平面図等を提出することになりますが、共有物の現物を分割することができない場合は、現物分割の判決が出されることはありません。

条文にある「共有物の現物を分割することができないとき」とは、「現物分割が物理的に不可能な場合のみを指称するのではなく、社会通念上適正な現物分割が著しく困難な場合をも包含するものと解すべき」(最判昭46年6月18日判決)とされています。実際に、一見分割が出来そうな場合でも裁判所の判断で現物分割を認めなかった裁判例もあります。

裁判にかかる費用

共有物分割請求訴訟を提起するには、印紙代およびその他諸費用(弁護士費用等)が掛かります。印紙代はその共有物の価値によって異なり、不動産の場合は、その不動産の固定資産評価額が基準になります。土地の場合は固定資産評価額の6分の1、建物の場合は固定資産評価額の3分の1を計算します。

  • さらに持分割合を乗じて、印紙代が決まります。

例えば固定資産評価額が100万円までの場合、10万円ごとに1,000円かかるため、50万円の時の印紙代は5,000円になります。

民事訴訟費用等に関する法律別表
(一) 訴訟の目的の価額が百万円までの部分
その価額十万円までごとに 千円

(二) 訴訟の目的の価額が百万円を超え五百万円までの部分
その価額二十万円までごとに 千円

(三) 訴訟の目的の価額が五百万円を超え千万円までの部分
その価額五十万円までごとに 二千円

(四) 訴訟の目的の価額が千万円を超え十億円までの部分
その価額百万円までごとに 三千円

(五) 訴訟の目的の価額が十億円を超え五十億円までの部分
その価額五百万円までごとに 一万円

(六) 訴訟の目的の価額が五十億円を超える部分
その価額千万円までごとに 一万円

判決が出るまでの期間

共有物分割請求訴訟は訴えの提起をしてから、半年程度で第1審の判決が出ることがほとんどです。そこから控訴審、上告審と上訴が続くと、その分判決が出るまでの期間はどんどん長くなっていきます。
数年、もしかしたら10年以上かかってくる可能性もあるため、注意が必要です。

共有物分割請求訴訟を行う場合のリスク

共有物分割請求訴訟のリスクは大きくは3つあります。

1. 当事者が望まない判決になる可能性がある

先述した通り、共有物分割請求の判決は裁判官の裁量がかなり大きく、例えば原告が競売を求めたとしても、現物分割や代償分割などの判決になることもあります。

2. 競売判決による価格下落のリスクがある

判決が競売に決定しても、すぐには分割できません。

裁判所は競売の判決を出すのみで、代理で売却手続きを行ってくれる訳ではないので、その後の手続は自分自身が予納金などの諸費用を負担して代理人弁護士に依頼し、処理しなければなりません。(例えば東京地裁本庁の場合、請求債権額が2,000万以上の場合は予納金が100万になります。)

共有物分割請求からの競売判決による落札価格は市場価格よりもかなり安くなってしまうことが多いのが現状で、結果的に各共有者の一人あたりの売得金も市場における売却のケースと比較して取り分は少なくなります。

また、そもそも競売は入札が無ければ成立しませんので、売れない可能性だってあります。判決により競売になってしまう前に、もっと言えば訴訟になる前に、各共有者が同意できるよう交渉していくことが何よりのポイントです。

競売になった物件は市場相場の6割程度の価格で落札されます

3. 共有関係解消まで数年かかることもある

訴訟を提起すると判決が出るまである程度時間がかかります。判決からの解決も含めると数年以上かかってしまう場合もあるため注意が必要です。拘束時間、裁判の精神的負担、そして訴訟にかかる費用を考えると、正直共有物分割請求訴訟を提起することはおすすめできません。

分割方法について、当事者間で協議がなかなか整わず、裁判になりそうということであれば、自己の共有持分のみを売却してしまって、いち早く共有関係から離脱することも一つの選択肢だと言えます。

FAQ

質問遺産分割(調停・審判)と共有物分割請求訴訟の関係はどのようになるのでしょうか。 どのような場合にどちらの方法が使えるのでしょうか。

相続による遺産分割が未了で、土地・建物が遺産共有状態の場合、家庭裁判所に遺産分割の調停(審判)を申し立てる他ありません。 つまり、遺産分割を終えていない状態での共有者(相続人ら)による共有物分割請求は申立ても不可能なのです。

♦参考判例:最高裁昭和62年9月4日判決

判旨:「遺産相続により相続人の共有となた財産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家事審判法の定めるところに従い、家庭裁判所が審判によてこれを定めるべきものであり、通常裁判所が判決手続で判定すべきものではないと解するのが相当である。」

遺産分割(調停・審判)と共有物分割請求訴訟の関係のイメージ

ただし共同相続人から共有持分物件の一部を譲り受けた第三者が分割を行う場合、遺産分割が終わっていなくても、共有物分割請求訴訟を提起することができます。

第三者に対して遺産分割審判手続上の地位を与えると、取得した権利以外の分割手続の全てに関与しなければならなくなるため、共同相続人にとっても第三者にとっても大きな負担となってしまいます。

♦参考判例:最高裁昭和50年11月7日判決

判旨:「共同相続人が分割前の遺産を共同所有する法律関係は、基本的には民法二四九条以下に規定する共有としての性質を有すると解するのが相当であって、共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産について同人の有する共有持分権を譲り受けた第三者は、適法にその権利を取得することができ、他の共同相続人とともに右不動産を共同所有する関係にたつが、右共同所有関係が民法二四九条以下の共有としての性質を有するものであることはいうまでもない。そして、第三者が右共同所有関係の解消を求める方法として裁判上とるべき手続は、民法九〇七条に基づく遺産分割審判ではなく、民法二五八条に基づく共有物分割訴訟であると解するのが相当である。」

相続人間のみの場合は遺産分割での解決、第三者がいる場合は共有物分割請求訴訟での解決を目指しましょう。

この記事の監修者

塩谷 昌則シオタニ マサノリ

弁護士

弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。共有物分割訴訟、遺産分割調停、遺留分侵害額請求など共有持分をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。

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