共有名義人が認知症になると不動産を売却できなくなるって本当!?知っておきたい事前対策

更新日:
作成日:

共有名義人が認知症になると不動産を売却できなくなるって本当!?知っておきたい事前対策

共有名義人が認知症になると不動産を売却できなくなるって本当!?知っておきたい事前対策

「最近、親の物忘れがひどい。認知症だったらどうしよう。」 
高齢の家族をもつ多くの方の頭をよぎる不安だと思います。 

統計によると、65歳以上の高齢者の約16%が認知症であると推計されており、これは決して他人事ではありません。

さらに、年齢が上がるにつれてその割合は高くなり、80歳代後半では男性の35%、女性の44%、95歳以上になると男性の51%、女性の84%が認知症になるとも言われています。
(参考:認知症と共に暮らせる社会をつくる|地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所

親が認知症になってしまったら、どのようなトラブルが発生し、どう対処していけばいいのか不安になりますよね。 

さらに、親が共有名義の不動産を持っている場合は、より深刻な問題に発展する可能性があります。
例えば、不動産を売却したくても手続きが進められない、相続や資産管理が滞るなど、法的な制約が生じるリスクがあります。

今回は、親が認知症を発症した場合に起こりやすい「不動産の共有名義」に関するトラブルと、その事前にできる有効な対策をご紹介します。

 認知症になったら不動産は売却できない? 

親の認知症の症状が進み、法律上の判断能力を失ってしまうと、たとえ子どもであっても親名義の不動産を代理で売却することは原則として認められていません。

例えば、親が介護施設へ入所することになり、その費用を捻出するために実家を売りたいと考えても、簡単には手続きを進められないのです。

しかし、法律に定められた適切な手続きを踏むことで、売却が可能になる場合があります。
次章では、その具体的な方法を解説します。

仲介手数料無料&初回相談から社内弁護士が同席!持分の売却なら中央プロパティー ≫

 認知症になった親の不動産を売却する4つの方法

認知症になった親の不動産を売却、または将来の売却に備えて管理する方法としては、主に以下の4つがあります。

  1. 法定後見人による売却
  2. 任意後見人による売却
  3. 家族信託(民事信託)
  4. 生前贈与

※ただし、②~④は親の判断能力が低下する前に手続きを済ませておく必要があります。

売却方法①:法定後見人による売却

家庭裁判所によって選任された「法定後見」の役割は、基本的に「判断能力を失った親の財産を維持・管理する」にあります。

そのため、本人の生活に必要不可欠な自宅の売却は原則として認められにくい傾向にあります。

しかし、「介護費用や医療費を支払うために、自宅を売却する以外に方法がない」といったやむを得ない事情がある場合、その旨を証明する資料と共に家庭裁判所に申し立て、居住用不動産の処分許可を得られれば、売却は可能となります。

センチュリー21中央プロパティーなら共有持分の売却を無料でサポート ≫

売却方法②:任意後見人による売却

あらかじめ親の判断能力が十分なうちに、本人との間で任意後見契約を結んでおく方法です。
その後、親の判断能力が低下した段階で家庭裁判所に申し立てをし、「任意後見監督人」が選任されることで契約の効力が生じます。

任意後見人は、契約時に定めた代理権の範囲内であれば、不動産の売却やそれに伴う登記手続きも行うことができます。

センチュリー21中央プロパティーなら共有持分の売却を無料でサポート ≫

売却方法③:家族信託(民事信託)

認知症の症状が軽い、もしくは認知症になる前に家族信託の手続きを終えておけば、親が認知症になっても資産が凍結されることはなく、信託契約の内容に基づいて受託者(子など)が実家を売却したくなったタイミングで手続きを進められます。

この場合、家庭裁判所への申し立てや許可は必要ありません。

ただし、家族信託は、手続きに費用がかかるというデメリットがあります。
家族信託契約には、公正証書作成費用や信託登記の登録免許税などがかかります。
また、これらを司法書士や弁護士に依頼した場合、コンサルティング費用を含めて数十万~100万円以上の費用がかかるケースがあります。

センチュリー21中央プロパティーなら共有持分の売却を無料でサポート ≫

売却方法④:生前贈与

親の判断能力が十分なうちに生前贈与を受けて子の名義に変更しておけば、その後は子の判断で実家を売却できます。

しかし、贈与された不動産の評価額によっては高額な贈与税がかかる可能性があり、その他にも不動産取得税や登録免許税などもかかるため、税金の負担が大きくなる点には注意が必要です。

贈与税の納税義務は、贈与を受けた側(受贈者)が負うことになります。

いずれの方法も、親の判断能力が十分なうちに対策を始めることが重要です。

要注意!親が認知症になった場合のよくある金銭トラブル事例

親が認知症になった場合に起こりがちな金銭トラブルとしては、以下のようなものがあります。

  1. 金銭管理が適切にできなくなる
  2. 悪徳商法や特殊詐欺に遭う
  3. 銀行口座が凍結されてしまう
  4. お金を盗られたと思い込んでしまう

認知症トラブル①:金銭管理が適切にできなくなる

認知症になると物忘れがひどくなり、判断力も低下してしまいます。
そのため、通帳やカードを紛失したり、不要なものを購入したりと、計画的なお金の管理が難しくなることがあります。

結果として、生活費が不足する恐れがあります。
いずれは、家族が代わって支払いをするなどの対応が必要になるでしょう。

認知症トラブル②:悪徳商法や特殊詐欺に遭う

近年、高齢者を標的とした消費者トラブルは後を絶ちません。

訪問販売、電話勧誘販売、架空請求などにより高額商品の購入・契約をさせられるなど、特殊詐欺に遭うことがあります。

このような悪徳商法や特殊詐欺のトラブルは、多くの場合、本人は被害に気づいていないため、家族が異変を察知し、速やかに消費生活センターや警察に相談して対処する必要があります。

家族が気づかないうちに繰り返し被害に遭うこともあり、その都度対処しなければならない状況は、家族にとって大きな負担となります。

仲介手数料無料&初回相談から社内弁護士が同席!持分の売却なら中央プロパティー ≫

認知症トラブル③:銀行口座が凍結されてしまう

金融機関が親の認知症を把握すると、本人名義の預金口座が凍結される可能性があります。

これは、口座名義人である認知症患者が、詐欺や悪徳商法といったトラブルに巻き込まれないための措置ですが、一度凍結されると、たとえ家族であっても口座から預金を引き出すことが難しくなります。

引き出しができない間、本人に代わって家族が医療費、介護費の立て替えをせざるを得なくなります。

認知症トラブル④:お金を盗られたと思い込んでしまう

認知症で認知機能が低下すると、精神面でも不安定になりがちです。

そのため、家族に対して暴言を吐いたり、暴力をふるったりといった行動に出たりすることもあります。

その結果、大事なものを盗まれたと訴える物盗られ妄想」という症状が現れるケースも少なくありません。
多くは財布や現金、通帳など財産に関連するもので、お金に対する「不安や執着」から「盗まれた」と思い込んでしまうのです。

症状がひどくなってしまってから家族が代わりにお金を管理しようとしても、本人は妄想から疑心暗鬼になってしまい、周りを信用できなくなっているかもしれません。
そうなってしまうと、家族が財産を管理をしようとしても、本人から拒絶され、困難を極める可能性があります。

親が認知症になる前に共有名義不動産の売却を急ぐべき理由

ここからは、特に注意が必要な「共有名義の不動産」について深掘りしていきます。

共有名義の不動産は、所有者全員の同意を得ないと管理や処分を行えないことが多いため、もし親が認知症になってしまうと様々な問題が発生します。
そのため、認知症になる前に共有名義を解消しておくことが極めて重要なのです。

共有名義の不動産を事前に対処すべき理由は、以下の通りです。

  1. 共有名義全体を売却するには全員の合意が必要なため
  2. 認知症になるとその共有者の同意が得られなくなるため

理由①:共有名義全体を売却するには全員の合意が必要なため

共有名義の不動産全体を売却するには、共有者全員の合意が必要です。
これは民法第251条第1項で定められていいる重要なルールです。

もし共有者の間で意見が割れると、不動産全体の活用や処分は自由にできません。
不動産全体の売却だけでなく、建て替えのような大きな変更(法律上「変更行為」と呼ばれます)を加える際にも、共有者全員の同意が必要です。

このように、共有状態では不動産の利用に制限がかかるリスクがあります。

仲介手数料無料&初回相談から社内弁護士が同席!持分の売却なら中央プロパティー ≫

理由②:認知症になるとその共有者の同意が得られなくなるため

もし共有者の一人である親が認知症になると、問題がさらに深刻になります。
認知症が進行すると、その人は法律上「意思能力がない」とみなされ、有効な法律行為(契約など)ができなくなるためです。

つまり、認知症になった共有者から法的に有効な同意を得ることができず、結果として不動産全体の売却や活用が不可能になってしまうのです。

例えば、子供たちが空き家となった実家を売却しようとしても、親が認知症になっていて同意が得られないようなら、実家の処分は極めて困難になります。

このような事態にならないためにも、親が認知症になる前に共有名義不動産の対策を講じておくことが極めて重要です。

仲介手数料無料&初回相談から社内弁護士が同席!持分の売却なら中央プロパティー ≫

親が認知症になる前にできる対策 

親が認知症になり、金銭トラブルが起こる前にできる対策は、以下の2つです。

  1. 成年後見制度の利用を検討する
  2. 家族信託(民事信託)を活用する

親がまだ健康なうちに、それぞれの家庭の状況に合わせてこれらの精度の利用を検討するなどし、家族で対策を考えておくことをおすすめします。

事前対策①:成年後見制度の利用を検討する

まず、認知症などにより判断能力が十分でない人を法的に保護し、支援する「成年後見制度」についてご紹介します。

成年後見制度とは、選ばれた後見人が本人の財産を管理したり、必要な契約を本人に代わっておこなう、というものです。

高額な商品の購入や契約も本人に代わって締結したりするものです。
また、本人が不利な契約をしてしまった場合に、後から取り消す「取消権」も後見人には与えられます。

成年後見制度には、以下の2種類があります。

  • 法定後見
  • 任意後見

法定後見とは

「法定後見」は、すでに認知症などで判断能力が不十分になっている場合に利用する制度です。

後見人は家庭裁判所によって選出されますが、近年では、中立的な立場から財産を管理するため、弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースが多くなっています。
そのため、家族が後見人等に選任されない限り、親の財産管理に関与できなくなってしまいます。

任意後見とは

「任意後見」は、本人の判断能力が十分なうちに、将来に備えて自ら後見人(任意後見人)を選んでおく制度です。

支援してもらう内容についても、契約によって自分で決められます。

任意後見では子どもなど信頼できる家族を後見人に指定できるので、親が元気なうちによく話し合い、本人の意思を尊重した財産管理が実現できる、非常に有効な対策といえるでしょう。

事前対策②:家族信託を活用する

成年後見制度よりも柔軟な財産管理を実現したい場合に、「家族信託」を利用するという選択肢があります。

家族信託とは、信頼できる家族(受託者)と信託契約を結び、特定の財産(信託財産)管理や運用、処分を任せる制度です。

例えば、親がアパート経営など、継続的な管理や契約行為が必要な事業を行っている場合、認知症になってしまったら、その業務を継続するのは困難です。

しかし、あらかじめ家族信託契約を結び、財産の管理・処分権限を子(受託者)に移しておけば、その後親が認知症になったとしても、契約内容に従って子が事業や財産管理をスムーズに引き継ぐことができます。

認知症が進行する前に共有名義の不動産でしておきたいこと

共有名義の不動産に関する将来の問題を回避するには、親の判断能力がはっきりしているうちの対策が不可欠です。

認知症が進行する前に検討すべき、共有名義不動産の対処法としては以下のものがあります。

  1. 共有名義から単独名義に変更する
  2. 親自身の共有持分を手放すように促す

対処法①:共有名義から単独名義に変更する

共有名義の不動産に関するリスクを軽減する効果的な方法は、共有名義から単独名義に変更することです。

単独名義に変更すれば他者の合意を得なくても不動産全体の売却や活用が可能となります。
したがって、将来的に不動産を手放したいと考えているなら、単独名義にしておく方が圧倒的に処分しやすくなります。

また、相続時のトラブルを防ぐためにも、単独名義化は有効な対策といえるでしょう。

親の不動産を共有名義から単独名義に変更する具体的な方法としては、以下のものがあります。

  • 親に持分を贈与してもらい単独名義にする
  • 親の共有持分を子が買い取り単独名義にする

◆親に持分を贈与してもらい単独名義にする

親の持分を子に贈与して、子が単独で所有する状態にする方法です。
ただし、この場合は「暦年贈与」にあたるため、年間110万円の基礎控除額を超える部分に対して贈与税がかかる点に注意が必要です。

なお、一定の要件を満たす場合(贈与者が60歳以上の親または祖父母、受贈者が18歳以上の子または孫)、より大きな非課税枠が利用できる「相続時精算課税制度」を選択することも可能です。
相続時精算課税制度とは、生前贈与と相続を一体として課税する制度で、累計2,500万円までの贈与については特別控除として贈与税が非課税となります。
特に、2024年1月1日以降の贈与からは、この2,500万円の特別控除とは別に、新たに年間110万円の基礎控除が設けられました。

この基礎控除の範囲内であれば、贈与税の申告は不要で、将来の相続財産に加算されることもありません。

なお、2,500万円を超えた分の額には一律20%の贈与税がかかります。

センチュリー21中央プロパティーなら共有持分の売却を無料でサポート ≫

◆親の共有持分を子が買い取り単独名義にする

もう一つは、子と親2人の共有名義であれば、子が親の共有持分を買い取る形で単独名義にする方法です。
この場合、親子間の取引であっても契約書を作成しておくことが重要になります。

なぜなら、口約束はトラブルのもとになるためです。
売買価格や条件などで揉めないためにも、契約書を必ず作成しておきましょう。

また、買い取りの際に極端に安い価格で取引をすると、差額分が贈与とみなされ(みなし贈与)、思わぬ贈与税が課される可能性があるため注意しましょう。
もし共有部分を買い取って単独名義にしたい場合は、不動産の評価額や取引相場を考慮しつつ、専門家のアドバイスを受けながら進めることをおすすめします。

共有名義の不動産を単独名義する詳しい方法は、以下の記事で解説しています。

対処法②:親自身の共有持分を手放すように促す

もし単独名義化が難しい場合、親自身の共有持分のみを売却して共有関係から抜け出す方法もあります。

重要なのは、自分が所有する共有持分のみの売却であれば、他の共有者の同意は不要であるという点です。
したがって、他の共有者の反対にあうこともなく、共有持分を手放せます。

共有持分の売却には主に二つの方法があります。
一つは買取業者に直接買い取ってもらう方法、もう一つは不動産の仲介業者を利用して第三者に売却する方法です。

一般的に買取業者よりも仲介業者、特に共有持分専門の仲介業者を選ぶ方が、より高値での売却が期待できます。
これは、買取業者が自社の利益のために安く仕入れることを目的とするのに対し、仲介業者は売却価格に応じて手数料(仲介手数料)が決まるため、より高く売却しようという売主の目的と一致しやすいためです。

センチュリー21中央プロパティーなら共有持分の売却を無料でサポート ≫

もし共有名義の不動産があったら親が認知症になる前に解消しよう

本記事では、不動産を所有する親が認知症になった場合の様々な問題と対策を解説しました。

親が認知症になってからでも、法定後見制度を活用すれば不動産の売却は不可能ではありません。しかし、法定後見制度では、財産処分が限定的であり、必ずしも本人が望んだ通りの柔軟な対応ができるとは限りません。

とりわけ共有名義の不動産は、所有者全員の合意が必要な場面が多く、共有者の一人である親が認知症になると完全に身動きが取れなくなってしまいます。
これは、単独名義の不動産よりもはるかに深刻なリスクです。

だからこそ、親の判断能力がはっきりしているうちに、将来の介護や医療費をどうするかを含め、不動産の取り扱いについて家族で話し合うことが何よりも大切です。

その話し合いを通じて、本記事で紹介した任意後見や家族信託といった制度を活用すれば、いざという時もスムーズに資産を活用できるでしょう。

親の本当の意向を確認し、家族の将来の選択肢を広げるためにも、問題を先送りにせず、ぜひ早めに話し合いの場を設けておきましょう。

センチュリー21中央プロパティーは、共有持分専門の不動産仲介会社です。
一般市場での売却が難しいとされる共有持分も、不動産鑑定士による厳密な査定と、独自の”買い手ネットワーク”を活用することで、お客様にとってより良い条件での売却を目指しています。

もちろん、将来のトラブルを避けるために共有名義を解消したいと考えているお客様の相談も受け付けています。
共有名義不動産や共有持分の現金化・売却に関するお悩みやご不明な点がある人は、どうぞお気軽に無料相談をご利用ください。

センチュリー21中央プロパティーなら共有持分の売却を無料でサポート ≫

この記事の監修者

塩谷 昌則

弁護士

エルピス総合法律事務所 代表弁護士/宅地建物取引士
東京大学法学部を卒業後、20年以上にわたり不動産法務の最前線で活躍する不動産トラブル解決のスペシャリスト。東京弁護士会に所属し、弁護士資格に加え宅地建物取引士の資格も有することで、法律と不動産実務の両面から深い専門知識と豊富な経験を持つ。

特に共有不動産における紛争解決においては、業界屈指の実績を誇り、共有物分割訴訟、遺産分割調停、遺留分侵害額請求など、複雑な案件を数多く解決に導いてきた。相続や離婚による共有名義不動産のトラブル解決に従事してきた。

著書に「事例でわかる 大家さん・不動産屋さんのための改正民法の実務Q&A」がある。メディア出演やセミナー登壇実績も多数。

おすすめの記事はこちら