離婚前に共有持分の売却はできるのか?
離婚前に共有持分の売却はできるのか?弁護士が解説

目次
夫婦共有名義の不動産では、離婚前でも自身の共有持分のみであれば、共有者(配偶者)の同意なしに売却は可能です。
これは民法で認められた権利ですが、注意が必要です。買い手を見つけるのが難しく、市場価格より大幅に安くなる傾向があります。また、売却益は最終的に財産分与の対象となり、夫婦関係や離婚交渉がさらに悪化するリスクも伴います。

離婚前でも共有持分の売却は可能
離婚協議中に夫婦共有名義の不動産における自己の持分を売却することは、法的には可能です。これは、民法において各共有者が自身の持分を自由に処分できるとされているため、他の共有者の同意を必要としないのが原則です。
例えば、夫Aと妻Bが共同で自宅を購入し、登記上の持分割合がAが7割、Bが3割であるケースを考えてみましょう。この場合、夫Aは自身の持つ7割の持分に関して、単独で売却活動を行うこと自体は、原則として法的な問題は生じません。
しかし、離婚を前提とした状況、特に離婚協議中や既に離婚訴訟が係属している場合には、その解釈と実務上の取り扱いは大きく異なります
裁判所は、形式的な登記上の持分割合をもって直ちに財産分与の基準とはしません。婚姻期間中に購入された不動産は、夫婦の協力によって形成された「共有財産」とみなされるため、その形成への貢献度に応じて財産分与の対象となります。たとえ夫Aが購入資金の7割を出資していたとしても、妻Bが家事や育児、その他の形で夫婦生活に貢献していれば、その不動産全体に対し、妻Bには潜在的に2分の1の財産分与請求権があると判断されるのです。
このため、離婚協議中に自己の共有持分を売却し、売却益を得たとしても、その金銭は婚姻中に夫婦が協力して築き上げた財産の一部とみなされます。結果として、その売却益の全額が財産分与の対象となり、最終的に夫婦間で折半されるべき財産として清算されることになります。
したがって、仮に離婚協議が成立する前に自身の共有持分を売却したとしても、法的なメリットはほとんど見出せません。
財産分与の確定前に共有物分割請求訴訟はできない
財産分与の確定前に共有物分割請求訴訟を提起すること自体は、法的に不可能ではありません。
しかし、夫婦間の共有不動産においては、その請求が「権利の濫用」として認められない可能性が高いため、実務上は非常に難しいケースが多いです。
民法上、共有者はいつでも共有物の分割を請求できる(民法256条)とされています。夫婦間の共有物であっても、形式的には共有物分割請求訴訟の提起自体は可能です。
しかし、夫婦間の共有財産、特に自宅のような生活の本拠となる不動産は、離婚時の財産分与で総合的に清算されるべきという考え方が強くあります。
このため、財産分与の協議や調停、離婚訴訟が先行して係属している状況で、一方の当事者が、財産分与の手続きを飛び越えて共有物分割請求訴訟を提起した場合、裁判所は以下のような点を考慮し、「権利の濫用」であると判断することが多いです。
- 財産分与制度の趣旨
夫婦間の財産清算は、離婚時の財産分与で包括的に解決されるのが原則であり、個別の共有物分割請求は、その趣旨に反すると判断される。 - 相手方への不利益
共有物分割請求訴訟が認められると、強制的な競売などによって不動産が処分され、特に離婚後に住み続けることを希望している側(特に子と住む側)が、住居を失うという大きな不利益を被る可能性がある。 - 手続きの効率性
財産分与の手続きが進行中であれば、その中で不動産の問題も解決すべきであり、別の訴訟を提起することは手続きの重複や非効率性につながる。 - 当事者の意図
共有物分割請求を提起した側の意図が、財産分与の公平な解決を妨害する目的であったり、相手を一方的に不利な状況に追い込む意図であったりすると判断される場合。
♦参考判例(1):東京地方裁判所平成20年11月18日中間判決
被告は,夫婦共同財産についての清算は,財産分与の審判の申立て又は人事訴訟手続によるものであって,夫婦が共有持分を有する共有財産がある場合にも共有物分割請求訴訟を提起することは許されないと主張するが,そのように解すべき法律上の根拠はなく,被告の主張は採用することができない。
♦参考判例(2):東京高裁平成26年8月21日判決
「民法258条に基づく共有者の他の共有者に対する共有物分割権の行使が権利の濫用に当たるか否かは、当該共有関係の目的、性質、当該共有者間の身分関係及び権利義務関係等を考察した上、共有物分割権の行使が実現されることによって行使者が受ける利益と行使される者が受ける不利益等の客観的事情のほか、共有物分割を求める者の意図とこれを拒む者の意図等の主観的事情をも考慮して判断するのが相当であり(最高裁判所平成7年3月28日第三小法廷判決・裁判集民事174号903頁参照)、これらの諸事情を総合考慮して、その共有物分割権の行使の実現が著しく不合理であり、行使される者にとって甚だ酷であると認められる場合には権利濫用として許されないと解するのが相当である」
離婚後に共有持分を売却する場合
既に離婚が成立している場合、財産分与も終了している=持分も確定しているため、自己の持分を売却することも、共有物分割を求めることも問題なく行うことができます。
財産分与によってそれぞれの共有持分が確定している場合、各共有者は自己の持分を自由に処分する権利を有します。これは民法206条に基づく基本的な権利であり、他の共有者の同意を得る必要はありません。
したがって、自身の持ち分を第三者に売却することは、法的には何ら問題なく行えます。この際、売却代金は売却した共有者の固有の財産となり、元配偶者にその分の清算を求められることもありません。
離婚後、財産分与が終了すれば共有物分割請求の行使もできる
また、離婚が成立し財産分与も終了している状況であれば、各共有者はいつでも共有物分割請求訴訟を提起し、共有状態の解消を求めることができます(民法256条)。
この段階では、離婚協議中のように「権利の濫用」として却下される可能性は極めて低いです。なぜなら、もはや夫婦間の財産清算という特別な関係性が解消されているため、通常の共有物と同じ法理が適用されるからです。
共有物分割請求訴訟が提起された場合、裁判所は以下のいずれかの方法で共有状態の解消を命じることが一般的です。
- 現物分割
土地を物理的に分けるなど。建物には適用が難しい。 - 代償分割
共有者の一方が不動産を単独で取得し、他の共有者にその持分に応じた金銭(代償金)を支払う。 - 換価分割(競売)
不動産を売却し、その代金を共有持分割合に応じて分配する。
特に、円満な合意が難しい場合や、特定の共有者が金銭的余裕がない場合は、最終的に不動産が競売にかけられる「換価分割」となる可能性もあります。競売の場合、市場価格よりも低い価格で売却されることが多いため、共有者全員にとって必ずしも有利な結果になるとは限りません。
共有持分を好条件で売却したい場合、共有持分専門の不動産会社に相談することで、トラブルなく高く共有持分を売却することができます。

共有名義から単独名義に切り替える方法
夫婦が共同して購入した不動産に関して、通常はローンを組んでいると思いますが、離婚後その名義を共有名義から単独名義に変更したい場合、どのようにしたらよいのでしょうか。
住宅ローンの支払いがまだ残っている場合は、ローンを借りている先の金融機関からの承諾がなければ、変更することはできませんが、承諾があった場合は下記の方法で変更することができます。
①住宅ローンを単独名義に変更
住み続ける夫婦の一方のみがローンを支払う形で、単独名義にする方法です。こちらは、残債と支払い能力を見て判断します。2人で支払うよりも1人で支払う方が金融機関にとってのリスクは高くなるので、その審査は厳しくなります。

②住宅ローンを借り換え
※1、2が認められない場合、連帯保証人や連帯債務者を加えることで、単独名義にすることができる可能性もあります。
- 連帯保証人:主債務者が支払わなければ、代わりにその主債務を支払う保証人のこと
- 連帯債務者:債務者と連帯して債務を負う者
夫婦で自宅を購入する際は、資金調達のため夫婦で共同して購入するケースも多いことでしょう。しかし離婚になってしまった場合、共同所有特有のトラブルに見舞われてしまうことがあるかもしれません。
まとめ
離婚協議中に、共有名義不動産の自分の持分を売却することは、法的には可能です。しかし、これが賢明な選択肢とは限りません。
確かに、自身の持分は自由に処分できますが、買い手は非常に限られ、市場価格より大幅に安くなるのが一般的です。さらに、売却益は最終的に財産分与の対象となり、夫婦関係や離婚交渉がさらにこじれる大きなリスクも伴います。
センチュリー21中央プロパティーは、共有持分専門の不動産会社です。社内弁護士が在籍しているため、元配偶者とのトラブルを防ぎながら売却をサポートします。離婚後に共有持分のご売却を検討されている方は、センチュリー21中央プロパティーへご相談ください。

この記事の監修者
弁護士
弁護士。早稲田大学法学部卒業。東京弁護士会所属。不動産の共有関係解消など相続と不動産分野の案件へ積極的に取り組む。主な著書に「一番安心できる遺言書の書き方・遺し方・相続の仕方」「遺言書作成遺言執行実務マニュアル」など。