共有持分の贈与契約書のひな型はある?記載すべき内容を司法書士が解説
目次
共有持分を贈与する場合には、適切な贈与契約書を作成することが重要です。
しかし、「どんな内容を記載すればいいの?」「そもそもひな型はあるの?」と疑問に思う方も多いでしょう。
この記事では、司法書士の視点から、共有持分の贈与契約書に必要な記載事項や注意点、実務で使えるひな型について詳しく解説します。
共有持分の贈与契約書に記載すべき内容
不動産の共有持分を贈与する場合、贈与契約書には明確に記載すべき項目があります。
法的なトラブルを防ぐためにも、形式にとらわれず実質的な記載内容を充実させることが重要です。
以下では、司法書士の立場から、共有持分の贈与契約書に記載すべき主要項目とそのポイントを解説します。
当事者(贈与者・受贈者)の正確な情報
契約の当事者を特定するため、贈与者と受贈者の住所と氏名を正確に記載します。
氏名は本人が自署し、実印での押印を強く推奨します。これは、民事訴訟法第228条第4項に基づき、「その文書が本人の意思で作成されたこと」を法的に推定させる効力(推定効)があるためです。後日の紛争を防ぐため、印鑑証明書を添付しましょう。
当事者が未成年者の場合は、親権者などの法定代理人の住所・氏名も忘れずに記載する必要があります。
贈与契約の日付
贈与契約書には、贈与者と受贈者の間で「贈与の意思表示が双方で合致し、契約を結んだ日」を記載します。
契約書を作成した日と、実際に贈与が成立した日が異なる場合は、それぞれ個別に記載します。
この日付は、後述する相続税の「持ち戻し」期間を証明する際にも重要になります。
贈与の目的物(不動産の詳細情報と持分割合)
第三者が見ても贈与の対象物が明確に特定できるよう、詳細な情報を記載します。
不動産の場合は、法務局で取得できる「全部事項証明書(登記簿謄本)」を見ながら正確に転記します。
| 目的物 | 記載項目 |
| 土地 | ・所在、地番、地目、地積 |
| 建物(家屋) | ・所在、家屋番号、種類、構造、床面積(各階別) |
共有持分の贈与では、「上記不動産の甲(贈与者)が有する持分全てを乙に贈与する」や、「共有持分4分の3のうち、持分4分の1を乙に贈与する」のように、持分割合を正確に記載することが必須です。
贈与の条件(負担付贈与)
贈与にあたって受贈者に何らかの義務を負わせる場合(負担付贈与)は、その条件を明確に記載します。
「贈与を受ける代わりに、当該不動産に残っている住宅ローンを受贈者が負担する」といった内容です。
贈与の方法と実行日
いつ、どのように不動産を引き渡すのか、具体的なスケジュールや方法を取り決めます。
「〇月〇日までに現状有姿(ありのままの形)で引き渡す」および、「〇月〇日までに所有権移転登記を行う」といった具体的な期日を記載します。
移転登記に必要な登記費用(登録免許税など)や、司法書士への報酬を贈与者と受贈者のどちらが負担するのかを明確にしておきます。
公租公課(固定資産税など)の分担方法
不動産に課せられる固定資産税などの公租公課は、毎年1月1日時点の所有者に対して課税されます。贈与契約書には、その年の税金を誰が負担するのかの基準日を定めておくと公平です。
「公租公課の負担については、持分移転登記完了の日を基準とする。前日までは甲が、完了日以降は乙が負担する」などと記載します。
契約書の法的効力を高めるためのポイント
贈与契約は、贈与者と受贈者の双方の合意があって初めて成立します。
特に受贈者が複数人いる場合は、すべての当事者が契約内容に合意しないと契約は成立しません。
合意を得ていないにも関わらず、贈与契約書の作成を進めてしまうと、私文書偽造の罪に問われる可能性があるため、全員の意思確認は慎重に行う必要があります。
ここでは、共有持分の贈与契約書の法的効力を高めるためのポイントを2つ紹介します。
①収入印紙の貼付
不動産の贈与契約書は課税文書に該当します。
契約書には、原則として一律200円の収入印紙を貼り付け、当事者のどちらかが割印(消印)をする必要があります。
②確定日付の取得
贈与契約書に公証役場で「確定日付」を取得してもらうことも有効です。
確定日付は「その日、その文書が確かに存在した」ことを公的に証明するものです。
特に相続税対策において、相続開始前3年以内の贈与が相続財産に持ち戻される(課税対象となる)ルールがあるため、確定日付により贈与が3年より前に行われたことを証明しやすくなります。
共有持分の贈与契約書のひな型
共有持分の贈与契約書のひな形は以下の通りです。
| 共有持分贈与契約書 第1条(贈与の合意) 贈与者である【甲】(以下「甲」という)は、甲が持分を有する下記不動産(以下「本件不動産」という)の共有持分のうち、以下の持分全てを、受贈者である【乙】(以下「乙」という)に贈与することを約し、乙はこれを受諾した。 第2条(贈与の条件および公租公課の負担) 1.本件贈与は、乙が以下の【贈与の条件】を負担することを条件とする(※負担付贈与の場合)。 【贈与の条件】:【具体的な条件を記載。例:本件不動産に残る住宅ローン残債のうち、〇〇円を乙が負担する。】 2.本件不動産に課せられる公租公課(固定資産税、都市計画税など)の負担については、所有権移転登記完了の日を基準とする。すなわち、移転登記手続きの前日までは甲が負担し、手続き完了以降は乙が負担する。 第3条(引渡しと所有権移転登記) 1.甲は乙に対し、【令和〇年〇月〇日】までに本件不動産を現状有姿(ありのままの形)で引き渡す。 2.甲は乙に対し、前項の引渡しと同時に所有権移転登記手続きを完了させるものとする。 3.当該所有権移転登記に必要な一切の費用(登録免許税、司法書士への報酬等)は、【乙の負担とする/甲が負担する/甲乙が折半する】ものとする。 第4条(瑕疵担保責任) 本件贈与は無償であり、甲は乙に対し、本件不動産の物理的・法律的瑕疵について、一切の責任を負わないものとする。 贈与の目的物(不動産の詳細) <土地> 所在:【全部事項証明書(登記簿謄本)のとおり正確に記載】 地番:【地番を正確に記載】 地目:【地目を正確に記載】 地積:【地積を正確に記載】 ㎡ (甲の持分:【〇分の〇】のうち、乙に贈与する持分:【〇分の〇】) <家屋> 所在:【全部事項証明書(登記簿謄本)のとおり正確に記載】 家屋番号:【家屋番号を正確に記載】 種類:【種類を正確に記載(例:居宅)】 構造:【構造を正確に記載(例:木造瓦葺2階建)】 床面積:1階:【床面積】 ㎡、2階:【床面積】 ㎡ (甲の持分:【〇分の〇】のうち、乙に贈与する持分:【〇分の〇】) 本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ、各自1通を保有する。 【契約締結日:令和〇年〇月〇日】 贈与者(甲) 住所:【住所を正確に記載】 氏名:【氏名を自署し、実印を押印】 ㊞ 受贈者(乙) 住所:【住所を正確に記載】 |
共有持分の贈与契約書が必要なシーン
共有持分の贈与契約書が必要になるシーンは、以下の通りです。
1. 贈与した共有持分の名義変更(登記)を申請するとき
贈与契約書を作成する最大の目的は、法務局で所有権移転登記(名義変更)を行うためです。
不動産の所有権は、たとえ当事者間で「贈与する」と合意していても、登記をしない限り第三者に対して「これは自分の財産だ」と主張する(対抗する)ことができません。
登記手続きを行う際、法務局へ「なぜ名義が変更されるのか」という原因を証明する「登記原因証明情報」の提出が必要です。
贈与契約書は、この「贈与による移転」を証明する確固たる書類となります。
2. 税務調査などで「贈与の事実」を証明するとき
不動産やその持分を贈与した場合、受贈者には贈与税が課税されます。
税務署は、贈与税の申告内容に疑義がある場合、税務調査を実施することがあります。
親子間など、親密な間柄では口頭で贈与を済ませてしまいがちですが、これでは税務調査が入った際に「本当に贈与が行われたのか」「その贈与はいつ行われたのか」を明確に証明できません。
贈与契約書は、贈与が成立した日付、贈与した財産の内容、当事者の合意を証明する公的な証拠となります。
この証拠により、適正な贈与であることを証明し、追徴課税などのリスクを回避できます。
3. 生前贈与を通じて計画的な「相続税対策」を行うとき
生前贈与は、将来発生する相続税の負担を軽減するための有効な手段です。贈与契約書は、この相続税対策を成功させるための根拠となります。
暦年贈与の基礎控除(年間110万円まで非課税)を利用して、毎年少しずつ持分を贈与する場合、その都度契約書を作成することで、各年の贈与の事実と金額を明確に証明できます。
相続開始前の一定期間内に行われた贈与は、相続財産に持ち戻して相続税が計算されます。
贈与契約書に確定日付をもらっておくことで、「いつ贈与が成立したか」を公的に証明し、この持ち戻しの対象期間外であったことを立証しやすくなります。
4. 共有名義の解消や整理など「権利関係を単純化」するとき
不動産の共有者が増えすぎると、売却や建て替えといった重要な決定に必要な“全員の同意”が困難になります。
共有持分の贈与契約書は、この複雑な権利関係を整理する際に使われます。
例えば、将来その不動産に住む予定の子に他の兄弟の持分を贈与などで集中させることで、単独名義に近づけ、将来の売却や活用の意思決定をスムーズにすることができます。
生前に誰にどれだけの持分を譲るか明確にしておくことで、相続発生時に共有不動産の分割方法で揉める、といった遺産分割協議のトラブルを未然に防ぐ効果があります。
共有持分の贈与契約書は公正証書での作成がおすすめ
共有持分の贈与契約書は、公正証書で作成することをおすすめします。
公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公的な文書で、高い証明力と強制力を持ちます。
特に不動産の共有持分贈与では、「贈与の事実」や「契約内容」の証明が重要となるため、第三者が関与して作成する公正証書によって、契約の真正性が強く担保されます。
また、確定日付も自動的に付与され、税務や登記手続きでも有利です。将来のトラブル防止や相続対策としても有効な手段といえるでしょう。
共有持分の贈与の流れ
共有持分の贈与の流れは、以下の通りです。
①贈与の意思確認・相談
まず、贈与者(持分所有者)と受贈者(贈与を受ける者)が贈与の意思を確認します。
不動産の共有持分は権利の一部であるため、双方が合意することが大前提です。専門家である司法書士や税理士に相談すると安心です。
②贈与契約書の作成
贈与の内容や条件を明確にするため、贈与契約書を作成します。
共有持分の所在や持分割合、引渡し方法、費用負担、税務上の取り扱いなどを記載し、双方の署名・押印を行います。公正証書にすることも推奨されます。
③印鑑証明書の準備
贈与契約書の信頼性を高めるため、贈与者・受贈者双方の実印と印鑑証明書を用意します。未成年の場合は法定代理人の同意も必要です。
④贈与税の申告(必要に応じて)
贈与税の基礎控除110万円を超える場合は、受贈者が税務署に申告し、税金を納めます。
税務署からの問い合わせに備え、契約書を保管しておきましょう。
⑤所有権移転登記の申請
贈与後は、法務局にて所有権移転登記を行います。
登記申請には贈与契約書、印鑑証明書、登録免許税の納付が必要です。登記を完了させることで、第三者に対して権利を主張できます。
共有持分の贈与契約書作成の流れ(公正証書)
公正証書で共有持分の贈与契約書を作成する際の一般的な流れは以下の通りです。
1. 事前相談・準備
まずは最寄りの公証役場に連絡し、公正証書作成の相談を行います。
必要な書類や手続きの流れについて案内を受けましょう。
贈与者・受贈者双方の本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカード)、印鑑証明書(発行3ヶ月以内)、登記事項証明書(登記簿謄本)などを準備します。
2. 公証人との打ち合わせ
公証人が贈与契約の内容を確認し、法律的な問題がないかチェックします。
契約内容を明確にし、不明点や疑問点を調整します。内容が確定したら、公証人が契約書の文案を作成します。
3. 公正証書の作成日時を決定
契約当事者が揃って公証役場に出向く日時を決めます。
贈与者・受贈者は双方ともに出席が必要です。代理人による作成も可能ですが、委任状や本人確認書類が必要になります。
また、病気や体力の衰えなど、自身が公証役場に出向けない場合は公証人に自宅などまで出張してもらうことも可能です。
4. 公正証書の読み合わせ・署名押印
当日、公証人が作成した公正証書の内容を読み上げます。内容を確認し、問題がなければ当事者全員が署名・実印で押印します。公証人も署名押印を行い、公正証書として成立させます。
5. 手数料の支払い
公正証書作成には公証役場に手数料を支払います。手数料は贈与する財産の価額に応じて定められており、事前に見積もりを確認すると安心です。
6. 公正証書の受領・保管
作成された公正証書は公証役場で原本を保管し、当事者には謄本(写し)が交付されます。謄本は登記申請や税務申告の際に必要となるため、大切に保管してください
まとめ:共有持分のご相談はセンチュリー21中央プロパティー
共有持分の贈与は、不動産の権利関係、登記、そして税務が複雑に絡み合うため、専門的な知識が不可欠です。
不備のある契約書は、将来の大きなトラブルの元になりかねません。
特に、公正証書での作成や相続税対策を見据えた贈与計画については、司法書士や税理士などの専門家の助言を得ることが最も確実です。
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この記事の監修者
司法書士
司法書士ALBA総合事務所 代表
東京司法書士会新宿支部所属。平成16年に司法書士試験合格以来、一貫して司法書士業界で研鑽を積む。
相続に関する手続き・対策(遺言書作成、相続手続き、成年後見など)、不動産登記(共有持分、権利変更など)、そして債務整理(自己破産、個人再生、過払い金請求など)において、豊富な実績と深い知見を持つ。
会社設立などの商業(法人)登記や、各種裁判手続きにも精通し、多岐にわたる法的ニーズに対応可能。
