\ 無料相談・査定をする /

制限行為能力者と遺産分割基礎知識

更新日:
作成日:

制限行為能力者と遺産分割

質問父が死亡し土地を3人で相続しました。ただ、一番下の弟がまだ未成年で、このような場合遺産分割協議などはどのように進めたらよいのでしょうか(相続人に未成年がいる場合)。
また、寝たきりで判別ができない相続人がいる場合はどうでしょうか(判断能力なき相続人がいる場合)

未成年者がいる場合の遺産分割協議について

民法824条:「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。」

とあります。親権者(父母)は、未成年者の子の財産に関する法律行為について、法定代理人として代理行為をすることができます(民法824条)。一方で以下の規定も定められています。

民法826条:「親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。」

とあります。未成年者の子の父母は、自分達の利益と子の利益とが対立する行為について、子の代理行為をすることはできないということになります。

なぜなら、親権者(父や母)が自らの利益を優先し、それによって子の利益が害されるおそれがあるからです。利益相反行為に該当する場合には、親権者ではなく、家庭裁判所が選任した特別代理人が未成年の子の代理人となります(民法826条1項)。

利益相反行為に該当する場合、親権者ではなく、家庭裁判所が選任した特別代理人が未成年の子の代理人となります(民法826条1項)

なお、遺産分割が利益相反行為に当たるかについては下記の最高裁判例が参考になります。

♦参考判例:最判49年7月22日判決

判旨:「民法八二六条二項所定の利益相反行為とは、行為の客観的性質上数人の子ら相互間に利害の対立を生ずるおそれのあるものを指称するのであつて、その行為の結果現実にその子らの間に利害の対立を生ずるか否かは問わないものと解すべきであるところ、遺産分割の協議は、その行為の客観的性質上相続人相互間に利害の対立を生ずるおそれのある行為と認められる…」

としています。遺産分割協議は利益相反行為に該当するため、特別代理人を立てなければ、遺産分割協議はできません。

現実に相続人間で遺産分割協議がまとまっており、争いが生じていないとしても、遺産分割に関する手続きは利益相反行為に該当するため、相続人の間に未成年者がいる場合には、その未成年者について特別代理人の選任が必要となります。勝手に行ってしまった遺産分割協議は無効になりますので、注意して下さい。

裁判例でも、特別代理人の選任をせずになした遺産分割審判は無効であるとした東京高裁の決定(東京高決昭和58・3・23家月36巻5号96頁)もあります。特別代理人の選任を受けるには、特別代理人の選任を受ける子の住所地の家庭裁判所に申し立てることになります。

判断能力に欠ける相続人がいる場合

遺産分割協議の内容を理解できないような相続人がいる場合、その者に署名捺印をさせて遺産分割協議を成立させてしまうことはできません。

遺産分割協議書に勝手に認知症の相続人の署名押印をするような行為については、当然無効となります。無効になるだけでなく場合によっては、犯罪行為とされる恐れもありますので注意して下さい。

判断能力に欠ける者がいる場合には、成年後見制度を利用して、成年後見人等を家庭裁判所に選んでもらうことが考えられます。成年後見制度では、1. 後見、2. 保佐、3. 補助の3つの類型があります。

1. 成年被後見人

民法7条:「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」

2. 被保佐人

民法11条:「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。」

3. 被補助人

民法15条:「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。」

判断能力の程度によって分かれており、最終的には家庭裁判所がどの類型にするか決めます。本件のように判断能力が全くない場合は、成年後見人を家庭裁判所が選任し、この成年後見人が相続人(本人)に代わって遺産分割協議に参加することになります。

制限能力者(制限行為能力者)

詳しくはこちらの「制限能力者(制限行為能力者)」をご覧ください。

この記事の監修者

菅原 悠互スガワラ ユウゴ

弁護士

弁護士。東京弁護士会所属。常に悩みに寄り添いながら話を聞く弁護方針で共有物分割や遺留分侵害額請求など相続で発生しがちな不動産のトラブル案件を多数の解決し、当社の顧客からも絶大な信頼を得ている。

この記事のタグ

おすすめの記事はこちら