共有持分の明け渡しとは|トラブル事例|その他
共有持分の明け渡しとは
目次
共有物件を明け渡す必要があるのか?
例えばABで家を共有しており、その持分割合が「Aが10分の9、Bが10分の1」という場合、持分割合が多いAからBに対して「出ていけ!」と言われてしまったらBは出ていかなければならないのでしょうか。
(共有物の使用)
民法第二百四十九条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
民法上は上記の規定があります。ここでのポイントは「共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる」という点です。仮に持分が少なかったとしても、共有物全部について利用する権利があるため、上記例でBが出ていく必要はありません。
ここで、最高裁の判例をご紹介します。
♦参考判例:最判昭和41年5月19日
事案:共有物の持分の価格が過半数をこえる者が共有物を単独で占有する他の共有者に対して共有物の明渡請求をすることができるか
判旨:「共有物の持分の価格が過半数をこえる者は、共有物を単独で占有する他の共有者に対し、当然には、その占有する共有物の明渡を請求することができない。」
持分を過半数以上持っていても、他の共有者には明渡し請求ができないとしています。
例外的に明け渡しが認められるケース
上記判例では「当然には、その占有する共有物の明渡を請求することができない。」としていますが、例外的に明け渡しが認められるケースがあります。
- 約束に反して単独利用をした
- 単独で変更行為以上の行為をしてしまった
など基本的には、約束と違う利用の仕方や、売却や大規模修繕のような他の共有者の同意が必要な行為を単独で行ってしまった場合が、この例外に当たります。共有者の一人が勝手に1階部分を改築して喫茶店を始めた!なんていうのがよくある例です。
その他、単独で抵当権を設定する場合や、売買・贈与してしまった場合も代表例です。
(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
賃料の支払い義務について
共有者のうち、1人が単独で共有不動産を利用し続けており、他の共有者は全く利用していないような場合、他の共有者は賃料相当分の金銭を単独で利用している者に請求することができます(不当利得返還請求)。
上記でも述べましたが、各共有者は持分に応じて共有物全部について利用することができます。そのため、持分割合を超えるような利用の仕方については、他の共有者に対して、その分の金銭を支払わなければなりません。
- 持分割合と賃料相当額を考慮し、不当利得の金額が算出されます。
(不当利得の返還義務)
民法第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
持分割合を超える共有物の利用の仕方は、法律上の根拠なく利益を受けており、その利益分、すなわち賃料相当分については本来利用する権利はないので、返還しなければならないということになります。
また、共有者の利用状況によっては、不法行為に基づく損害賠償請求という形でも金銭の請求ができる可能性はあります。
当社にあった実際のご相談
質問私は3人兄弟の長男で、父名義の実家家屋に長年父と同居し介護してきました。
父が亡くなり兄弟で相続について相談したところ、弟たちは父が亡くなったので、「父名義の家に住む権利はないから出ていけ。住みたいのなら家賃を払え」と言い出しました。
私は出て行かなければならないのでしょうか?また家賃も支払わないといけないのでしょうか?

遺産分割協議が終わるまでは従前通り住むことは問題ありませんし、家賃も発生しません。
解説
明渡について
本件では父の生前に、長男が父名義の実家建物に無償で居住していた点から、使用貸借契約(無償で借りる場合のこと)が成立していたと解されます。相続財産たる不動産について使用貸借契約を解除することは管理行為に該当し、通常は過半数の同意で決することになりますが、本件の場合は次男長女側で明け渡しを求める理由を主張立証する必要があります。
参考になる判例を見てみましょう。
♦参考判例:最高裁昭和41年5月19日判決
判旨:「他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるものではない。…多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。」
明渡を求める理由について、判例は基準などの明言はしていませんが当然合理的な理由がいるものと考えられます。
家賃の支払いについて
家屋を明け渡す必要がないとしても、共有不動産を単独で占有してしまっているということはこの共同相続人が自己の持分を超えて相続財産の使用収益をしていることは明らかです。
賃料相当額を支払う必要があるとも考えられますが、少なくとも被相続人の死亡から遺産分割終了までは賃料は発生しません。
同種の事例の判例を見てみましょう。
♦参考判例:最高裁判所平成8年12月17日判決
判旨:「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。」
最高裁は、この判決の理由を続けてこう述べています。
「…居住は被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。」
以上より、少なくとも遺産分割終了までは賃料は発生することはありませんので、ご安心ください。
明け渡し請求をしたい場合の方法
共有者同士の同意が得られた場合や重大な用法違反等があった場合を除き、他の共有者への明渡し請求をすることは難しいとお考え下さい。無理矢理出ていかせるような行為をしたり、妨害するような行為をしたりしてしまうと、逆に不法行為に該当してしまうケースもあるので、注意が必要です。
共有状態から離れたい場合の方法
共有状態から離れたい場合には、共有物の分割請求を行うか、自己の共有持分を売却することで、共有状態から離れることは可能です。
(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。
各共有者はいつでも分割請求をすることができるので、他の共有者に分割請求を求めることで、共有状態を解消することができます。ただ、それには各共有者間での同意が必要になるため、同意が得られない場合には、自己の共有持分のみを売却することで、共有状態から離脱することができます。
なお、自己の共有持分は他の共有者の同意なくして売却することができますが、念のため他の共有者へ事前に知らせておいた方が禍根を残さずトラブルも抑えられるでしょう。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。東京弁護士会所属。常に悩みに寄り添いながら話を聞く弁護方針で共有物分割や遺留分侵害額請求など相続で発生しがちな不動産のトラブル案件を多数の解決し、当社の顧客からも絶大な信頼を得ている。