【民法改正】配偶者居住権とは?共有持分との関係や相続トラブルを解説
【民法改正】配偶者居住権とは?共有持分との関係や相続トラブルを解説

「夫に先立たれた後、今住んでいるこの家に住み続けられるだろうか」。 そんな不安を抱える方は少なくありません。
2020年4月1日に施行された改正民法で、その不安を解消するための一助となる「配偶者居住権」という権利が新設されました。
この権利により、残された配偶者は、相続時に自宅の所有権がなくても住み慣れた家に住み続けることが可能になります。
しかし、この制度を利用することで、結果的に不動産が「共有」状態になり、かえってトラブルの原因になるケースも考えられます。
この記事では、民法改正の概要とともに、配偶者居住権が共有持分とどのように関わるのか、そしてどのような点に注意すべきかを分かりやすく解説します。

民法の相続法改正について
本題に入る前に、今回の「配偶者居住権」がどのような法改正の中で生まれたのか、その全体像を簡単に確認しておきましょう。
民法等の一部改正法
改正のポイント | 概要 |
配偶者居住権の創設 | 残された配偶者が住み慣れた家に住み続けられるようにする権利 |
遺産分割前の預貯金の払戻し制度 | 遺産分割が終わる前でも、一定額の預貯金を引き出せる制度 |
自筆証書遺言の方式緩和 | 財産目録はパソコン等で作成可能になり、自書の負担が軽減 |
特別の寄与の制度 | 相続人以外の親族(例:子の配偶者)の貢献を金銭で評価する制度 |
2018年7月6日に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。
この改正は、社会の高齢化や家族の在り方の変化に対応するため、約40年ぶりに行われた相続法(民法のうち相続に関する部分)の大きな見直しです。
公布の日から段階的に施行され、配偶者居住権に関する部分は2020年4月1日から施行されています。
今回のテーマである配偶者居住権も、この大きな法改正の一部です。
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共有持分と配偶者居住権について
それでは、本題である「配偶者居住権」と「共有持分」の関係について詳しく見ていきましょう。
この制度は配偶者の権利を守るものである一方、新たな共有関係を生む可能性がある点を理解することが重要です。
配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、被相続人(亡くなった方)の配偶者が、相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた場合に、終身または一定期間、その建物を無償で使用できる権利のことです。
簡単に言えば、「所有権は子どもが相続するけれど、お母さんは生涯その家に住み続けて良いですよ」という権利を法的に認める制度です。
この権利は、遺産分割協議や遺言、家庭裁判所の審判によって取得できます。
この配偶者居住権と、その負担付きの所有権を別の相続人が相続した場合、不動産は実質的に権利者が複数いる「共有」状態に近い形になります。
たとえば、配偶者が「居住権」を持ち、子が「所有権」を持つケースなどがこれにあたります。
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配偶者居住権導入の背景
なぜ、このような新しい権利が作られたのでしょうか。
その背景には、社会の高齢化があります。
- 遺産が自宅不動産と少しの預貯金しかないケース
- 法定相続分どおりに分けるには、自宅を売却せざるを得ない
- 結果、高齢の配偶者が住み慣れた家を失い、生活基盤が揺らいでしまう
配偶者の居住権を保護するための方策はこれまでもありましたが、十分ではありませんでした。
特に、遺産の大部分が自宅不動産である場合、残された配偶者がその不動産を相続すると、他の相続人(子など)に支払う代償金が用意できず、結果的に自宅を売却せざるを得ないケースがありました。
そこで、配偶者の居住権を保護しつつ、他の相続人との公平な遺産分割を実現するため、配偶者居住権が導入されたのです。
この制度により、配偶者は自宅の「居住権」を、子は「所有権」を相続するという形で、柔軟な遺産分割が可能になりました。

新設条文について
配偶者居住権は、民法第1028条で新たに定められました。
条文を確認してみましょう。
(配偶者居住権)
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。
ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 (省略)
3 (省略)引用元:民法第1028条
この条文のポイントは、但し書きにある「被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない」という部分です。
つまり、亡くなった方が生前から第三者と不動産を共有していた場合、原則として配偶者居住権は成立しません。
これは、共有者全員の同意なくしては利用形態を変更できないという共有のルールがあるためです。
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詳細
配偶者居住権の具体的な内容について、さらに詳しく見ていきましょう。
配偶者居住権のメリット・デメリット▼
メリット | デメリット |
配偶者は住み慣れた家に生涯住み続けられる | 配偶者は所有者ではないため、自由に売却や賃貸、リフォームができない |
所有権を相続するより低い評価額で済むため、他の遺産(預貯金など)も相続しやすくなる | 所有権を持つ子などの相続人は、固定資産税を負担する必要がある |
子の世代は、親の居住環境を守りつつ、将来的に不動産を承継できる | 不動産をすぐに売却して現金化したい相続人がいる場合、トラブルになりやすい |
【存続期間】
原則として配偶者の終身の間とされています。
ただし、遺産分割協議や遺言で別段の定め(例えば「10年間」など)をすることも可能です。
【登記の必要性】
配偶者居住権は登記することができます。
建物の所有者が変わっても、登記をしておくことで新しい所有者に対して居住権を主張できます。
第三者に対抗するためにも、登記は非常に重要です。
【譲渡の不可】
配偶者居住権は、建物の所有者の承諾を得なければ、第三者に譲渡することはできません。
これは一身専属的な権利(その人個人に認められた権利)という性質が強いためです。

まとめ
本記事では、民法改正で新設された「配偶者居住権」について、共有持分との関係を中心に解説しました。
配偶者居住権のポイントは、以下の通りです。
- 配偶者居住権は、残された配偶者が住み慣れた家に無償で住み続けられる権利。
- この制度を利用すると、配偶者が「居住権」、子が「所有権」を持つなど、実質的な共有状態になることがある。
- 亡くなった方が生前に第三者と不動産を共有していた場合、配偶者居住権は原則として成立しない。
- 権利関係が複雑になるため、将来の売却や相続(二次相続)でトラブルになる可能性も考慮する必要がある。
配偶者居住権は、高齢の配偶者の生活を守るための画期的な制度です。
しかし、その一方で新たな共有トラブルの火種になる可能性も秘めています。
制度を利用する際は、メリット・デメリットを十分に理解し、家族間でよく話し合いましょう。
もし、配偶者居住権や共有持分のことで少しでもお悩みであれば、一人で抱え込まず、専門家のアドバイスを受けることを強くお勧めします。
当社センチュリー21中央プロパティーは、共有持分専門の不動産仲介会社です。
これまでに延べ4万件を超える共有持分のトラブル解決・売却をサポートしてまいりました。
共有持分に強い社内弁護士が常駐しているため、いつでも法的な課題をクリアしながら、確実・安全にお手続きを進められる点が大きな強みとなっております。
初回のご相談から売却に至るまで、諸費用は完全無料でご利用いただけますので、共有持分のトラブルや売却でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

この記事の監修者
弁護士
エルピス総合法律事務所 代表弁護士/宅地建物取引士
東京大学法学部を卒業後、20年以上にわたり不動産法務の最前線で活躍する不動産トラブル解決のスペシャリスト。東京弁護士会に所属し、弁護士資格に加え宅地建物取引士の資格も有することで、法律と不動産実務の両面から深い専門知識と豊富な経験を持つ。
特に共有不動産における紛争解決においては、業界屈指の実績を誇り、共有物分割訴訟、遺産分割調停、遺留分侵害額請求など、複雑な案件を数多く解決に導いてきた。相続や離婚による共有名義不動産のトラブル解決に従事してきた。
著書に「事例でわかる 大家さん・不動産屋さんのための改正民法の実務Q&A」がある。メディア出演やセミナー登壇実績も多数。