共有持分と遺産分割について|法律・税金|相続

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共有持分と遺産分割について

遺産分割とは

遺産分割とは、遺言が残されていなかった場合に話し合いによって各相続人へ財産を具体的に分配していくことをいいます。

(遺産の分割の協議又は審判等)

民法第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

(遺産の分割の効力)

民法第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

上記の記載の通り、遺産分割にはいつまでにしなければならないというような期間の限定はありません。また、遺産分割は「相続開始の時」=被相続人の死亡時にさかのぼって効力を生じます。

例えば、被相続人が亡くなってから10年後に遺産分割協議が完了した場合、相続開始の時点、すなわち10年前にさかのぼってその効力が生じるため、その10年の間に相続人の誰かが亡くなってしまっていると法律関係が複雑になってしまいます。遺産分割は早めにしておいた方がよいでしょう。

遺産分割の手続き

さて、次は、遺産分割をする手続きについて見ていきましょう。
基本的には話し合いで決めることになりますが、相続財産が多かったり、相続人の主張が異なったりしてしまう場合には、話し合いだけではなかなか決まりません。その場合、下記の流れで解決するのが通常です。

  1. 「遺産分割協議」
  2. 「遺産分割調停」
  3. 「遺産分割審判」

(1)遺産分割協議は相続人が集まって、相続財産の分割の話し合い(協議)を行うものです。特に方法などの決まりはありませんが、相続人全員の参加(弁護士などの代理人でも可)が必要です。また話し合いの内容は必ず書面(遺産分割協議書)に残すことがポイントになります。

(2)遺産分割調停は、遺産分割協議がまとまらなかった場合に、家庭裁判所の力を借りて解決する方法ですが、通常の裁判とは異なります。調停というのは、調停委員が仲裁に入り、当事者間の争いを解決するために進んでいきます。
基本的には相手と直接顔を合わせる必要はありません。調停委員は専門的知識がある人なので、法律に則った話を丁寧にしてくれますし、解決案の提案もしてくれる点はメリットと言えるでしょう。

しかし、手間や時間がかかったとしても相続人同士の同意が取れない可能性もあります。調停でも話がまとまらなかった場合は、そのまま審判に移行されます。

(3)遺産分割審判は、裁判官が遺産分割の方法を決定する手続きです。調停は調停委員が行うのに対して、審判は裁判官が行うのが大きな違いです。遺産分割審判の中でも当事者の話は聞きますが、最終的には裁判官が遺産分割の方法について一方的に判断を下すことになります。

遺産分割方法

遺産分割の方法としては、下記4つがあります。

  1. 現物分割
  2. 換価分割
  3. 代償分割
  4. 共有分割

ここからは、実際に遺産分割をする場合の方法について解説していきます。

(1)現物分割

現物分割は、「現」実に「物」を分割する方法です。
例えば相続財産として甲土地があり、相続人ABが相続分に応じて土地を分筆し、それぞれの所有にした場合等がこれに当たります。現実に分割しやすい相続財産の場合は可能ですが、分割しにくい財産の場合はこの方法をとることはできません。

(2)換価分割

こちらの方法は、相続財産を売却し、その金銭を相続人で分割する方法です。現実に分割しにくい財産の場合や現金を手にしたい場合は、こちらの方法が向いています。

(3)代償分割

代償分割は、相続人の一人が相続財産を取得する代わりに、その相続した者から他の相続人に金銭を出すことで分割する方法です。
例えば、実家の土地と建物は長男が引き続き利用するため長男が相続し、その代わりに次男には相応の金銭を与えることで分割することができます。

(4)共有分割

共有分割は、とりあえず相続分に応じて共同所有をしよう、という方法です。この方法は二次相続が発生した場合、新たな相続人の名義が加わっていくことになるため、権利関係が複雑になってしまいます。相続によって共有状態が多く発生してしまう理由はこの分割方法があるからといえるでしょう。

共有名義不動産の相続トラブルを避ける遺産分割協議のイメージ
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遺産分割を行う流れ

次に、遺産分割を行う流れについて見ていきましょう。一般的な流れは以下の通りです。

1. 遺言の有無を確認する

まずは遺言の有無を確認する必要があります。もし遺言がある場合は、遺産分割協議をするまでもなく、遺言の内容が優先されるためです。遺言の有無は必ず遺産分割開始前に確認しましょう。

2. 相続財産を確認する

預貯金や現金、株、不動産、貴金属などが相続財産の代表例です。自宅で預貯金通帳等を調べましょう。また借金などのマイナスの財産も相続財産になりますので、督促状などがないかも確認しておきましょう。場合によっては、相続放棄をした方が得になるかもしれないからです。

3. 相続人を確定させる

必ず戸籍を確認し、相続人を確定させることがポイントです。

4. 遺産分割協議を行う

相続人全員を参加させることが好ましいですが、どうしても参加が難しい場合には、弁護士などの代理人を立てるとよいでしょう。その場に必ずしもいなければならないわけではないので、電話等でも問題ありません。

5. 遺産分割協議書をまとめる

必ず実印で押印するようにしましょう。内容や形式に自信がない場合には、専門家にその内容を確認してもらうのも一つの方法です。

遺産分割調停に必要な書類と費用

遺産分割協議書イメージ

遺産分割調停を利用する場合、必要書類をそろえる必要があります。専門的な知識を有する弁護士への相談も検討していただくのがよいでしょう。

必要書類

  • 申立書1通及びその写し(相手方の人数分)
  • 申立添付書類
  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての除籍戸籍・戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の住民票、もしくは戸籍附票
  • 遺産に関する証明書→預貯金通帳や登記簿等

費用

  • 申立てにかかる費用
    手数料1,200円(被相続人1人につき)
    郵便切手
  • 弁護士を調停の依頼をした場合の費用
    相談料:5,000円程度~/30分
    着手金:300,000円程度~(遺産額により異なる)
    報酬金:4%~16%程度(取得できた金額により異なることが多い)

このように、調停を利用するとなると手間も費用も掛かってきてしまいます。また少ない財産であっても、相続でもめてしまうと家族内でのしこりがのこってしまうため、遺産分割はうまく進める必要があります。

FAQ

質問遺産分割終了後に遺言書が出てきた場合はどうなる?

こちらの場合、残念ながら原則として遺言書が優先されます。そのためせっかくの遺産分割協議が無駄になってしまうことも。ただ、遺言に書かれていた受遺者が遺産の相続を放棄するのであれば、遺言ではなく分割協議が優先されます。また、錯誤無効を主張することもできますが、こちらが認められるケースはそう多くありませんし、裁判によって解決することが必要になるため、その分時間と費用も掛かってしまいます。

遺言書の内容によってその後の対応も変わってくるため、もし遺産分割協議後に遺言書が出てきてしまった場合は、すぐに弁護士などの専門家へ相談することをおすすめいたします。

遺産分割終了後に遺言書が見つかった!イメージ

質問遺言で遺産を全額第三者に持って行かれてしまったのですが、取り戻す方法はありますか?

この場合、遺留分減殺請求という権利を行使することで一定の遺産を取り戻すことができる可能性があります。遺留分とは、「相続人に法律上保障された一定の割合の相続財産」です。

遺言で相続財産のすべてを第三者に取得されてしまわないよう、残された家族に一定の財産を残させる制度です。兄弟姉妹以外の相続人であればこの権利を主張することができます。ただ遺留分自体の放棄も可能であったり、遺留分減殺請求権の行使できる期間は限られていたりするため注意が必要です。

(遺留分の帰属及びその割合)
民法第千四十二条:「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一」

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

民法第千四十八条:「遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。」

(遺留分の放棄)
民法第千四十九条:「相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
相続人と遺留文割合を表した表

質問遺産分割と相続税の関係は?

遺産分割はいつまでにしなければならないという期限はありません。しかし、相続税には申告期限があるため、注意が必要です。

相続税の申告と納税は、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うこと」になっています。これは相続財産が分割されていない場合、すなわち、遺産分割協議が未了であっても変わりません。

もし10か月以内に申告がされなかった場合、相続財産を各相続人が法定相続分に従って財産を取得したものとして相続税が計算されてしまうので注意が必要です。その計算された相続税は当然支払わなければなりません。

この記事の監修者

塩谷 昌則シオタニ マサノリ

弁護士

弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。共有物分割訴訟、遺産分割調停、遺留分侵害額請求など共有持分をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。

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