不当利得|用語集

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不当利得

意義:契約などのような法律上の原因がないにもかかわらず、本来利益が帰属すべき者の損失と対応する形で利益を受けること

民法703条:「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。」

とあります。正当な理由なしに財産的利益を得て、これにより他人に損失を及ぼしたものに対して、その利得を返還させる制度です。公平の理念がその背景にはあります。例えば、雇用契約終了(または解除)後に給与が振り込まれた場合、すでに契約関係がないにもかかわらず(法律上の原因がない)利得を得ていることになるため、この給与は不当利得として返還する義務が発生します。

不当利得の成立要件

  1. 他人の財産または労務によって利益をうけたこと
  2. そのために他人に損失を及ぼしたこと
  3. 1、2との間に因果関係があること

が成立要件とされています。

いわゆる転用物訴権

契約上の給付が契約の相手方のみならず第三者の利益になった場合の問題です。

例:Aは所有者Cからブルドーザーを借りていました。そのブルドーザーを修理工のBに出し修理をしてもらいました。しかし、修理代金を支払う前にAが倒産してしまい、ブルドーザーを所有者Cに返還しました。修理工のBは所有者Cに対して修理代金相当額を請求できるのでしょうか。

CとBには直接契約が無い(法律上の原因がない)ためこのような請求が認められるのか問題になっていました。

①Aが所有者Cからブルドーザーを借りた。②そのブルドーザーをBに修理してもらった。③BがAに修理代を請求しようとしたところAが倒産したためCに請求する事ができるのか?を表した図
♦参考判例①:最判昭45年7月16日判決
判旨:「訴外会社の無資力のため、右修理代金債権の全部または一部が無価値であるときは、その限度において、被上告人(上記ではC)の受けた利得は上告人(上記ではB)の財産および労務に由来したものということができ、上告人は、右修理(損失)により被上告人の受けた利得を、訴外会社に対する代金債権が無価値である限度において、不当利得として、被上告人に返還を請求することができるものと解するのが相当である(修理費用を訴外会社において負担する旨の特約が同会社と被上告人との間に存したとしても、上告人から被上告人に対する不当利得返還請求の妨げとなるものではない)。」

♦参考判例②:最判平7年9月19日判決
事案:丙→建物賃貸→乙→修理を依頼→甲
乙が無資力なため、甲家屋の所有者丙に修理代金を請求。
判旨:「甲が建物賃借人乙との間の請負契約に基づき右建物の修繕工事をしたところ、その後乙が無資力になったため、甲の乙に対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建物の所有者丙が法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られるものと解するのが相当である。」

としています。上記ブルドーザーの例に当てはめると、AがCに対する反対債権を有しない場合で、Cの受益がCA間の契約を全体としてみて無償と認められる場合にはCの受益は法律上の原因が無いといえます。

例えば、Aが修繕費用を負担する特約がある場合それがブルドーザーの賃料設定に反映されていない場合、賃料に反映されている場合(補修の可能性があるため賃料が安く設定)、所有者は既に修繕費を全体として負担(有償)していると考えられるため、このような場合にまで修繕費用を負担させることは二重に支払うことを強いるのと同様であり、不当利得の制度趣旨(公平の原則)に反してしまうため、認められません。

「一般条項(公序良俗違反、権利濫用、信義則等)」

公序良俗違反

民法90条:「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」

公序良俗とは、「公の秩序又は善良の風俗」の略です。簡単にいえば、一般的な「倫理」のことで、倫理に反することをしたら、その行為は無効となるということです。
契約自由の原則という考え方があり、基本的に当事者が同意すればどのような契約をするかは自由です。ただ、Aさんを殺害してくれたら1億円上げる契約などは「公の秩序又は善良の風俗に反する」ため公序良俗に反し無効になります。

公序良俗に反するかどうかについては、以下の3つの基準があるとされています。

  1. 財産秩序に反するもの
  2. 倫理的秩序に反するもの
  3. 自由・人権を侵害するもの

権利濫用

民法1条3項:「権利の濫用は、これを許さない。」

権利の行使にあたってその正当な範囲を逸脱し,正当な権利の行使とは認められないと権利の濫用にあたります。
民法1条3項の他にも刑事訴訟法規則1条2項、労働契約法3条5項等の明文で規定しています。権利濫用は形式的には権利行使の外形があるものの、具体的な状況や結果に照らすと妥当とされる範囲を超えているため、実質的に権利行使として認めることができない場合です。

♦参考判例:大判昭13年10月26日判決 判旨(口語訳):「権利を行使する者の主観によらず客観的立場から、権利者のそれによって得ようとする利益とそれによって他人に与える損害とを比較衡量して、その権利の存在意義(社会性)に照らして判断するべき」

としています。

信義則

民法1条2項:「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」

信義則の原則とは信義誠実の原則の略です。例えば、債務者が、債務について消滅時効が完成した後に債務の承認をした場合は、その後に時効消滅を主張することはできない(信義則のなかでも禁反言の原則)、というものです。

時効が完成していても債務者が債権者に債務があることを認め返済しますといっていたものの、実は消滅時効の期間が過ぎていたことに気が付き、やっぱり消滅時効を援用したいです。とは言えないということです。債権者は債務者が時効の権利を放棄し債務を払ってくれると思っています。

まとめ

これら一般条項が問題となるのは実はあまり多くありません。裁判などで、具体的な法律や裁判例を適用して結論を導いた場合に結論が社会的に見て妥当とは言えない場合等最後の切り札として使われることが多いです。

この記事の監修者

塩谷 昌則シオタニ マサノリ

弁護士

弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。共有物分割訴訟、遺産分割調停、遺留分侵害額請求など共有持分をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。

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