基礎知識
作成日:2017.02.01
私は、母から母が住んでいた不動産を相続しましたが、不動産が母の単独所有ではなく、母と叔父の共有名義(連名)であることを知りました。叔父も亡くなっていますので,そのまま住み始めて20年経過しましたが,時効の主張はできますか?
時効取得できる場合を整理してみましょう。
民法162条1項:「二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」
民法162条2項:「十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」
1項は悪意取得、2項は善意取得と呼ばれています。
悪意(他人の物と知っていた場合)は20年、善意(他人の物と知らなかった場合)は10年経つと時効取得(自己の所有物になる)できます。
占有はあくまで、自主占有である必要があり、賃貸等では当然他主占有になるため、時効取得の問題は発生しません。
それでは、相続があった場合はどうでしょうか。
民法にこんな規定があります。
民法185条「権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。」
「新たな権原」により占有の性質がかわる、他主占有から自主占有になる可能性があるということです。
相続が「新たな権原」に当たれば、占有の性質が変わり、時効取得の可能性も考えられます。
♦【最判昭46年11月30日】
判旨:「被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによつて占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであつたときでも、相続人は民法185条にいう「新権原」により所有の意思をもつて占有を始めたものというべきである。」
とし、相続が「新たな権原」に該当し、占有の性質が変わることがあるとしています。
♦【最判平8年11月12日】
判旨:「他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合において、右占有が所有の意思に基づくもの であるといい得るためには、取得時効の成立を争う相手方ではなく、占有者である当該相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すべきものと解するのが相当である。」
としています。
これは、時効し得る者が自ら、自主占有であることを証明しなければなりませんということです。
「外形的客観的にみて」とありますが、これは、固定資産税を支払ったり,その物からの収益を一方的に行ったりしていたような自主占有と認めるべき特別な事情をいいます。
そのような事情が無い限りは時効取得できることはないと考えて下さい。
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