相談事例
作成日:2020.03.03
相続放棄とは、すべての財産を相続する資格を放棄することをいいます。
被相続人の借金等、マイナスの財産だけではなく、不動産や預貯金等プラスの財産も含め、一切の相続財産を相続することができなくなります。
(相続の放棄の効力)
民法第九百三十九条:「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」
ここでのポイントは、初めから相続人とならなかったものとみなすという点です。相続放棄をするとそもそも相続人ですらなくなってしまうのです。
また相続放棄をする場合は、他の相続人に放棄する旨を伝えるだけではなく、相続があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。
(相続の放棄の方式)
民法第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
「共有持分をもつ父が亡くなり、それを母と子で相続した」
「共有名義不動産を夫婦で購入したが、夫が亡くなり妻と子で相続した」
上記のように共有持分を相続するケースは少なくありません。
ただ共有状態を残しておくと後々面倒なことになってしまう可能性もあるため、共有持分の相続放棄をしたいという方もいらっしゃるでしょう。しかし残念ながら、共有持分のみを相続放棄するということはできません。
相続放棄は100か0、すなわち、相続を全てするか、全てしないかの2択しかないため、どうしても共有持分を相続したくない場合は、他のすべての財産もすべて相続放棄する他ありません。
共有持分を相続放棄した場合、基本的には次の順位の相続人に相続の順位が移ります。
また相続人がいない場合は、他の共有者へ帰属することになります。(※他の共有者がいない場合には最終的には国庫へ帰属することになります。)
(持分の放棄及び共有者の死亡)
民法第二百五十五条「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。」
具体例を見てみましょう。
①夫と妻、長男、長女がいて不動産は夫と妻の共有(2分の1ずつ)、夫が死亡した事例(※長男が相続放棄)
このような場合、長男は相続放棄したことから、相続人としての地位が無くなり、妻が夫の共有持分の2分の1、長女が夫の共有持分の2分の1相続します。
②夫婦が不動産を2分の1ずつの持分割合で共有しており、夫が死亡した事例(一人の子が相続放棄、夫の父親存命)。
本ケースの場合、妻は夫の共有持分を3分の2、夫の父親は共有持分を3分の1取得します。
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
先ほども述べましたが、相続放棄をするには、相続開始を知ったときから3カ月の間に、家庭裁判所申述をする必要があります。
その際、下記書類を用意する必要があります。
・被相続人の住民票の除票
・相続放棄する本人の戸籍謄本
・収入印紙
・被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
・郵便切手(書類郵送用)
相続放棄をしてしまうと一切の財産を相続する権利を喪失してしまいます。「やっぱり相続したかった」というような変更もできないため、注意が必要です。
(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
民法第九百十九条 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。
相続放棄しようかどうか悩む・・・という場合、「相続によって得たプラス財産の限度において、被相続人の債務などのマイナスの財産を相続する」限定承認という方法もありますので、お困りの際は専門家に相談するとよいでしょう。
また、相続放棄をする間に相続財産を使い込んでしまった場合や、相続放棄すべき期間の3か月以内に放棄しなかった場合(熟慮機関の経過)、相続放棄自体ができなくなってしまいます。
(単純承認の効力)
民法第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
(法定単純承認)
民法第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
共有持分を相続したくないからといって、相続放棄をして他のプラスの財産まで相続しないのはもったいないです。
もちろん、結果的に負の財産が多い場合は、相続放棄をすることも有効な手段といえますが、共有持分は自己の持分であれば、自己の判断で売却することもできます。
いったん相続して、共有持分を売却して現金化を図るという手段も検討してみてはいかがでしょうか。
相続はいつ自分に降りかかってくるかわかりません。日ごろから準備をしていたとしても想定外のことが起こりがちです。
相続のトラブルは親族間のトラブルに発展し、修復不可能な絶交状態になってしまう場合もありますので、不安がある方はまず専門家に相談してみるとよいでしょう。共有不動産の自己持分を現金化(売却)するメリット・デメリットとは?
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